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解放ト衝動 8

少しだけ、身体が動くようになった月人はようやく立ち上がり、遊具の下から這い出た。 あたりは強い魔力に満ちていて、公園内は荒れていた。 置いてある遊具は破損し、粉々になったコンクリートが散乱している。 そしてその魔力は、自分のものだと感じた。 「これ...俺が...?」 「....しょうがねえなぁ」 隣に立つ皇は頭を掻きながらも、質問には答えなかった そんな彼の態度が暗にそうだと言っているようで 月人は恐ろしくなって自分の体を抱くように腕を組んだ。 「そんな顔すんな」 皇はそう言って月人の頭を撫でて、片目を細めて笑った。 やがて公園の真ん中あたりに歩いていくと、片手の人差し指で空中をなぞる。 暖かな風が吹き、瞬きの隙間で公園は元に戻っていった。 その背中を見つめながら月人はなぜか心臓がぎゅっと締め付けられる。 それが罪悪感からなのか、それとも別の何かなのかはわからなかった。 黒い髪が風に揺れていて、それを見つめている時間がとても長く感じられるようで。 気付いた時には彼は側に来ていて、公園はもと通りになっていた。 「さて..帰るか」 皇はこちらを見つめては微笑んだ。 公園は元通りになったが、頬の切り傷は治っていない。 自分が傷付けてしまったのだろうか。 月人は彼の頬に触れて、そこに口付けた。 「ん、なんだぁ?」 「....ごめん」 月人が謝ると、皇は呆れたように笑った。 「素直な月人くんとか気持ち悪りぃな」 「うるさい」 いつものように悪態を吐き合い、 やがて2人は手を繋いで歩き出した。 1人ではない、それはとても煩わしくて とても心地いいものなのだと、思い出してしまった。 やっと彼の手を握り返せて、 さっきまで死んでしまいそうだったのに 本当に皇は不思議なやつだと思った。 「ごしゅーさまぁぁ!!!」 公園を出ると凄まじい怒号とともに向こうから誰かが走ってくる。 ヒッ、と声をこぼして皇はなぜか月人の後ろに隠れた。 わけもわからず突っ立っているとだんだん近付いてくるその巨体が目前に迫り、月人は逃げることもできず その大男を見上げた。 「え?なに?だれ?」 「よかったぁ〜ごしゅーさま!見つかったっぽいですねー?」 タキシード姿の大男は劇画テイストの濃い顔を綻ばせてくる。 その絵にもかけない気味の悪さに月人は自分の背中にしがみついている皇を振り返った。 「....お知り合い?」 「バカ言え、お前の大事な人だろ..」 「はい?」 「ごしゅーさまぼくですよう!」 その独特な舌足らずに月人はギシギシと筋肉が拒否反応を起こすのを感じながら大男を見上げた。 認めたら負けな気がする。 「多分俺の血を飲んだことにより魔力が暴走しかけてんだ」 「い.....」 「ごしゅーさま!」 「いやあぁぁあぁあーーーーー!!!!!!」 目の前の耐え難い現実に月人は女子のように叫んだのだった..。

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