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魔女堕チノ時間 1
無事元の屋根の下に帰ってきた2人と一匹であったが
皇に突き離されるよりも辛い現実がそこには待っていた。
月人は夕ご飯の支度を白目を剥いてこなしながらもチラチラと目の端に映るタキシード姿の大男に心が折れて居た。
「もうダメだ生きていけないいくらポンコツでも猫だったから許されてたんだ耐えられない力なんて要らない欲しいのは癒しであってもふもふであって筋肉じゃない髭じゃない冗談じゃない」
ぶつぶつと文句を言いながらネギを刻むその背中を皇はため息をつきながら見守って居た。
「だから俺を解放しろって」
「それは....嫌だ...っ」
月人は振り返って睨んでくる。
片手には包丁を持ったままだったせいか皇は両手を挙げている。
「お前の持てる力量を超えた魔力のせいだ。
俺と"繋がってる"から吸収しちまうんだよ
急にふらついたり指先に電気が走ったみたいになることあっただろ?
魔力が暴走してるってことだ」
そう言われると思い当たるところが沢山ある。
公園の荒れ果てた姿もそうだ。
だが皇を離すのはどうしても嫌だったのだ。
別に彼を解放したくないのは餌がなくなるから、とかそういうことではない。
具体的にこの強い気持ちの正体が何かはわからない。
繋がりがなくなってしまうのが怖いのかもしれない。
彼はああ言ったが、それ故に1人で勝手にどこかに行ってしまいそうで。
大切なものを守ろうとするあまり、また無茶をするのではないかとも思うし。
しかしこのままというわけにはいかない。
ただでさえ狭い家に人間三人分も面積を取っている使い魔がいてはたまったものではないし
何よりこのままだと命の危険だと魔女は言う。
それに、また傷付けたら...。
「......抑え込む方法とか...」
「一個体が持てる魔力総数は大体決まってる。
ある程度容量を増やすことは出来ても最大値まで上がるわけじゃねえからな..」
「.....っ」
月人は唇を噛んで、ついまた彼に背を向けてしまった。
魔女が凄い存在なのは痛いほどわかっているが、
自分が吸血鬼だったゆえに何も守れないのは歯痒かった。
包丁を握った手を握りしめて、泣いてしまいそうなのを我慢する。
分かっている。自分が言っているのはただの駄々。
自分に自信がない者の情けない戯事だ。
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