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魔女堕チノ時間 2
「.....月人」
とん、と背中に彼の指が触れる。
そのまま背中に頬を寄せられて思わず背筋が伸びてしまう。
「ご存知のとーり俺はここを離れたくねえから
お前を置いてどこかに行ったりなんかしねえよ?」
魔女には隠し事はできないのかもしれない。
思っていること全てを見透かされているようだ。
でも、自分が弱いせいでまた皇があんな風に眠ったままになってしまったら?
次は目覚めないかもしれない。
そうしたら、自分はどうなってしまうのだろう。
彼は、どうなってしまうのだろう。
1人で真っ暗闇の中彷徨い続ける、そんなことになってしまったら。
「全く寂しがりだなー月人くんは」
皇はクスクス笑って月人の肩に顎を乗せてくる。
そのバカにしたような言い方が今はチクリと胸を刺す。
そうやって平気なふりをするのだろうか。
...魔界にいた頃のように。
「..寂しがりはお前だろ」
あー?そうかもなー、と呟く彼を振り返る。
皇のその黒い瞳に自分はどう映っているのか。
じっと見つめ合っていると、世界の音が消えて
心臓の脈打つ音が静かに鳴り響いていた。
「.......皇...俺は...」
腕を伸ばして、その身体に触れたくて。
皇は逃げることもなくじっと月人を見つめていた。
どきどき、と彼の鼓動の音も近付いてくるような
そんな感覚に陥る。
伸ばした手が彼の腰に触れる....。
「仲直りしたっぽいですねお二人とも」
「ひょぁ!」
急に鳴り響いたこの世の終わりのような低い声に月人は飛び上がった。
皇は固まっている。
2人の間に突如として現れたタキシード大男に
ドキドキドキドキと鼓動が留まるところを知らない。
「お、おまっ、きゅ、急に出てくんな心臓に悪い!」
「えーひどいなあずっといましたよう」
「その喋り方やめてほんと...」
皇は頭を抱えながらそそくさと退散してしまった。
あークソ邪魔が入った。
邪魔?
邪魔ってなんだよおおお!
月人は慌ててまな板に向き直り、食事の準備を再開させた。
一体何をするつもりで、何を言うつもりだったんだろう。
俺は...なんだよ!
別に腹が減ってるわけでもないのに。
皇の黒い瞳がキラキラ光っていて、吸い込まれそうだった。
普段は死んでるみたいな目なのに、対峙すると、なぜか。
....西日のせいだろうか。
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