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魔女堕チノ時間 3
月人はあれ以来、皇が使っているなぜか無駄に広い王様ベッドに寝ることもなく
いつもシロエたちが食事をしている畳の部屋に布団を敷き寝ていたのだが
なぜか皇に呼び出されベッドに座らされていた。
「え?なんて?」
向かい合って言われた言葉に月人は思わず目を見張った。
「だから、しょーがねえから魔女辞めてやるって言ったんだよ
そしたら魔力も半減するだろうし問題なくなるだろ」
「辞めるって...魔女ってそんな簡単にやめれんのかよ..」
吸血鬼は生まれて死ぬまで吸血鬼のように、魔女もそうではないのだろうか。
まあでも確かに人間は人間をやめてズキュゥっと吸血鬼になることが出来ないわけでもないが...。
「さっきも言ったけど、魔界に帰らなくてよくなる方法は色々あって
追放されるだとか任務で離れるだとかな。
今回お前に縛ってもらってるのは厳密に言えば、
“魔界には入れなくなる"ってだけで
大罪を犯せば...例えば魔女殺しとか、すると連行されて連れ戻されたりもする。」
胡座をかいて腕を組んだままペラペラと喋る皇だったが
月人はなんだかまたとんでもない事を言い出されている気がして思わず正座になってしまう。
魔女殺し...、もしかしたらあの女魔女は自分を殺させることで皇を連れ帰ろうとしたのだろうか?
だとしたらとんでもない執念というか..そこまでしてこいつを連れ帰りたい魔界とは一体どんなところなのだろう。
思わず身震いしてしまうと、
皇はそれに気付いたのか口を歪めて笑った。
「まあでも平和的かつ合法的に魔界に帰れなくなる方法は、
魔女をやめること..いわゆる魔女堕ちすることだな。」
魔女堕ち、それは堕天のようなものなのだろうか。
月人は膝の上に乗せた拳を握り締めた。
「...お前は..それでいいのか....?」
「んーまあいずれは辞めようと思ってたしな。
ご主人様が契約切ってくれねえなら今すぐ辞めるしかないだろ」
いつものように軽く言う皇はバイト辞める的なノリに聞こえる。
しかし月人には彼を魔女のまま繋ぎ止めておく力もなければ方法もわからないのだった。
「まあそんな顔すんな。俺もさっさと魔界と関係切りたいのもある
寧ろ決断させてくれてありがとって感じだし
それに魔女辞めたとてお前より強いから安心しろ」
皇はそう言って笑った。
本当にいいのか、迷いはあるのだが彼がいいのならいいのだろう。
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