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赤く、花のような殺人鬼 2
「最期に言い残すことは?」
再び声が響く。
ツツジの空っぽの頭は、今は恐怖で真っ白になっていた。
死にたくない。
その言葉を発する力が無く、ただ首を横に振った。
天井から火の束が降って来た。
ガシャン、と天井が閉じられる冷たい音を最後にパチパチと火が木に引火し
あっという間に燃え広がる様を呆然と見る事しかできない。
括られている鉄の棒はあんなに冷たかったのに、徐々に熱を持って身体を襲う。
「……っ」
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
考えてもどうしようもないことを考えながら、歯を食いしばり
身体を包み始める火の熱さに震えていた。
「熱いか?苦しいか?」
残酷な声が響く。
「…っ、たす、けて……ぇ」
酸素の薄い世界で絞り出すような声が溢れた。
「助かりたいか?」
その言葉にツツジは無我夢中で頷いた。
炎は瞬く間に身体を包み込み、
その激しい痛みと自分の肉が焼けていく匂いに絶叫する間も無く気を失った。
最初に目の前で人が死んだのはいつだったか。
覚えていないけど、“大人”の話曰く
幼い自分は血溜まりの中にいた、と言うことだった。
孤児院で喧嘩をしていた少女の身体が吹っ飛び、
天井に打ち付けられて落ちて来た。
多分これは二度目。
別の孤児院で、なにかと目の敵にされ
鞭で叩いてくるシスターが四散して
いよいよ行くところが無くなった。
自分で奴隷市場に行って頭を下げた。
鉄牢の向こう側で、嫌味を言ってきた男の体が浮き
そのまま首がねじ切れて死んだ。
最初の仕事は、確か大きな屋敷の下っぱ。
主人の顔は見たこともない。
馬小屋を掃除するのが仕事だった。
馬は優しくていつも一緒に寝てくれた。
馬の世話をする使用人に虐められていたが
そいつは暴れた馬に蹴られて死んだ。
同い年くらいの少女、たまに少し会話をした。
調理場の外で野菜を洗わされていた。
ある日その子が他の使用人に襲われているのを目撃して
気付けば2人は足元で首だけになっていた。
次の仕事はほとんど追い剥ぎ。
街を彷徨っていた時に声をかけて来たから乗った。
女を殴れなくて酷く折檻された。
次の日全員消えていた。
赤い血溜まりだけを残して。
それから色んな街を転々とし、
誰かを騙したり足を開いたり
やれることはなんでもやった。
だけど人を殺したり、ましてや殴ろうなどとは思わなかった。
いつもどちらかといえば殴られていたし、
どちらかといえば殺されかけていた。
だけど決まって死ぬのは相手の方で、
そこまでしなくていいのに、というような死に方をした。
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