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黒馬と共に 1
ガチャガチャと音を立て馬車は揺れる。
山道に入ってから余計に激しい。
着なれない重装備と、施された化粧品と香水の香りで大変に気分が悪かった。
ツツジはため息を溢しながら頭を抱えた。
この1週間、あの男から様々な情報を聞かされたが
覚えていることといえば数えるほどだ。
相手は山奥に住んでいるという領主、
領主は変わり者で城に数名の使用人と共に引きこもっている。
屈強で残虐で偏屈。
これまでに送り込んだ刺客は皆返り討ちに遭いほとんど戻って来ていないし、
戻って来たとしても精神に異常を来している、という
なんだかどこかで聞いたような話である。
とんでもない大男で、見た目だけでなく力も強くそれはそれは恐ろしいとか。
「名前は確かええっと…ヒタヒタ…?ガイド…?」
「シュタインガルド・ハイリッヒ・ブロウ・ゼアレス様ですよ」
「そうそれそれ。偉い人って名前長いがちだよね」
一緒に乗っていた女が苦笑しながら教えてくれた。
ツツジはヘラヘラしながらも、縮めてゼアちゃん⭐︎とか呼んだら怒られるかなぁなどと思ったりする。
慎重に慎重にと釘を刺されたがツツジには慎重というのもよくわからなくて
とりあえず、その気になってもらうまでセクシーアタックをするしかないな、などと浅はかに考えているのだった。
「そのおじさんの家までどれぐらい時間かかるの?」
「今山に入ったばかりですから7、8時間といったところでしょうか」
「7、8じかん!?フルタイムじゃん」
そんなに長い間この文明を頭に装着しておかねばならないのか。
着いてからでよくね?、とツツジは不満を覚えた。
馬車も無駄に豪華で馬にも飾りがたくさん付けられていてそりゃ足が遅くなるのも当然である。
馬が可哀想だ。
自分も馬も辿り着くまでに無事でいられるか心配になって来た。
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