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黒馬と共に 2
「シュタインガルド様はあまり人を近付けさせないお方です
ゆえに色に関しても恐らく飢えておられるのではないかと」
「いろ…?」
「ええ、ですからこの度美しい若者を所望されたのだとか」
「そうなの?俺大丈夫かな…一応男だし…」
ツツジは“美しい若者”に自分が当てはまるわけがないことくらいは理解していた。
たしかに金のために男に足を開いた事はあれど、経験豊富とは言えない。
少し前に娼婦宿にいたが洗濯係であったし。
ツツジは娼婦宿にいた=経験あるだろうと勝手に勘違いされていると思っていた。
しかしそういったところで死ぬ運命は変わりない。
今は言われたことをただハイと素直に従ってやるだけだ。
「飢えておられるでしょうし大丈夫でしょ」
「若者、とだけ仰られたそうですしどちらもいける方なのでは?」
お喋りな女達は一様に適当なことを言っている。
ツツジを送っていくだけなのでピクニック気分なのかもしれない。
「それにツツジ様結構綺麗ですよ」
「え…ほんと…?」
「ええ、馬子にも衣装とはまさにこのこと」
女達の言葉にツツジは少しだけその気になってしまう。
確かにこんな綺麗な服も化粧も生まれて初めてだ。
装飾は重たすぎるが、貴重な経験かもしれない。
「メイド喫茶のお土産というやつだ」
ツツジは一人で噛み締めながら、うんうんと頷いたのだった。
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