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黒馬と共に 3
それから馬車は進み、明らかに道は悪くなっていくようだった。
空気も薄く、山の上へ行くにつれ霧がかかっているため視界も悪いのか
歩みもかなり遅かった。
女達は一生喋っていて、最初は楽しかったが頭痛と共に煩わしくなっていってしまう。
喉もカラカラだし、気分が悪くて、かといって眠ることもできず
ツツジはぐったりと座席の背もたれに埋もれていた。
そうこうして時間をやり過ごしていると、
やがて激しい揺れに襲われた。
「うわっ」
「きゃあぁぁ!」
凄まじい音を立てながら視界が上へ下へと激しく揺れ、
女たちが次々に叫び声を上げる。
右へ左へと身体同士がぶつかり、やがてツツジは馬車の外へ放り出されてしまった。
地面に転がり落ち、二転三転し、突っ伏すような形で止まった。
そのまま暫く動けずにいたが、やがてじんわりとした痛みが身体中に走る。
「い…ったぁ……」
呼吸が止まっていたようだった。
痛みを感知するとようやく脳が動き始め、恐々と顔を上げた。
馬車の姿はない、目の前が崖になっているようだった。
重たい着物を引きずりながらなんとか這い上がり、崖へと近寄る。
崖の淵にギリギリ車輪が引っ掛かっていた。
遥か奈落が見え、ツツジはどうしていいか分からずただ呆然とそれを見下ろした。
引っ掛かっていた車輪が嫌な音を立てて壊れた。
重さに耐えかねた馬車はその全てを引き連れて落下していく。
「いやぁぁぁ!!!」
人々の叫び声がこだました。
ツツジは呆然とその場に座り込み、底がないように真っ黒に口を開けている崖を見つめた。
「……みんな落ちちゃった……」
数秒後奈落の底から、小さな破壊音が聞こえた。
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