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黒馬と共に 4

何が起きたのかわからず、暫く絶望していたが やがてツツジはあたりを見渡す。 馬車の残骸や、積荷のいくつかが転がっていた。 やたらと重たかった頭の飾りもぐしゃぐしゃになっていて 仕方なくツツジはそれを拾い上げた。 木々に覆われた森の中は霧がかっていてよく見えない。 今自分がどこにいるのか、目指すべき場所がどこなのかもわからなかった。 さっきまであんなに煩かった声も今は聞こえない。 それどころか自分の呼吸や布が擦れる音以外なんの音も無かった。 「……寒い…」 重苦しい着物を着ているにも関わらず、ひんやりとした空気に晒され凍えるようだった。 どうしようもなくなったツツジは、 とにかくどこかへ向かうべく崖に背を向けて歩き出した。 高い靴も脱げてしまいどこに行ったかわからないので、素足で土の上を踏みしめる。 足を踏み出すたびに身体に痛みが走った。 せっかく綺麗にしてもらったのにきっと顔も髪もドロドロに違いない。 そんな見てくれよりも今は遭難してしまったことの方が重大で 夜が来るまでにはせめて身体を休められる場所にいたいものだが 霧に包まれた世界は暗く、今がどれくらいの時間帯なのかもわからなかった。 「どうしよ…」 再び呟いて、その場所からそんなに歩くこともできずツツジは立ち止まってしまった。 元々気分も悪かった上に身体が痛くて、寒くて、 遂に倒れるようにしゃがみ込んでしまった。 お腹もすいたし喉も乾いた。 拷問されなくても飢えか凍えるかで死んでしまう。 その前にもしかするとこの森には獰猛な動物だって住んでいるかもしれない。 いくら危機感のないツツジであってもそれぐらいの恐怖は備わっているもので、 怯えながら白い息を吐き出した。 「気持ち悪い……」 ストレスが限界に達したのか、ツツジは胸あたりから何かが押し上げられる感覚に陥り思わず口元を覆った。 しかしすぐに無理だと悟り、地面に吐瀉した。 朝食として出された質素な食事が地面にぶちまけられる。 口の中でも切ったのか少し血が混じっていた。 それでも気持ち悪さは軽減せず、苦しさに涙が溢れてくる。

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