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黒馬と共に 5
「…っ、う…ぅう…」
ついこの前までは火炙りになって、まだその傷も癒えていないのに
今度は訳の分からない森で迷子。
つくづく上等とは程遠い人生だと思う。
そんな人生だからツツジはあまり悲しくて泣くことはなかったのだが
今は涙が溢れてしまう。
泣いてたってどうしようもないから、嫌なことはすぐ忘れようとしてきたしあんまり考えないようにもしてきた。
だから今どうしたらいいかも分からないのだった。
「ここで何をしている?」
急に声が上から降ってきて、ツツジは顔を上げた。
いつの間に目の前に大きな黒い馬が立っていた。
それは馬車を引いていたあのゴテゴテに飾り付けられた馬の中の一頭のように見える。
飾りは外されていたが、ツツジにはそれがわかった。
「お前…生きて…?」
思わず馬に話しかけ、すぐになんで馬が喋るんだ?と不思議に思う。
「馬って喋れるっけ?」
「何を言っておるのだお前は」
馬にツッコミを入れられツツジはぽかんと口を開けたままその黒い瞳を見つめた。
やがてドサリと何か重たいものが落ちるような音がして、そちらを見てしまうと
黒いローブを身に纏った大男が馬の傍に立っていた。
馬の背丈と同じぐらいはあるのではと思うほどの大男だ。
ローブを着ていてもわかる屈強な体付き、無精髭と無造作に掻き上げられた真っ黒な髪、額や頬に残るたくさんの傷、鋭い眼光は冷たく輝きこちらを睨んでいる。
「馬が擬人化した……」
ツツジは情報処理ができず呆然と呟く。
「…お前一人か?他の者はどうした」
男に聞かれ、ツツジは後方の崖をあまり見ないようにしながら指さした。
「落ちた」
「落ちただと?」
男は低い声を出し、あたりを歩き回り始めた。
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