13 / 162
黒馬と共に 6
ツツジは腰が抜けていて立ち上がれず、
こちらを心配そうに見下ろしてくる馬を見上げた。
「…お前、生きててよかったね…飾り、ない方がやっぱ綺麗だよ
俺とは逆だ」
そんなことを言いながらヘラヘラしていると、男が戻ってきた。
あのおぞましい崖を見に行ってきたのだろうか
手には散らばっていた荷物のいくつかを持っている。
「馬が屋敷に逃げてきたので様子を見にきてみれば。
全くチャラチャラとピクニック気分で来るからだ」
彼の言葉に、自分も思っていたことだったので、はは、と笑う。
が、男は怪訝そうに顔を顰めた。
「…ところで…お前か…?その、サキュバスとかいうのは」
「え?ああ……そうかも」
「全く…」
男は深いため息を溢す。
「仕方がない。行くぞ、立て」
男はそう言って馬の身体を撫でた。
ツツジはそうしたいのは山々だったが、体にうまく力が入らない。
しかしこのままだと置いていかれて一人にされそうだったため
なんとか渾身の力で立ち上がった。
「痛…っ、ま…待って…」
足に激痛が走ったが、我慢して馬を引いて歩き出す男について行こうと足を踏み出す。
相手が誰だかは知らないが、人に会えたのは千載一遇のチャンス、逃すわけにはいかない。
しかし男はどんどん遠ざかっていき、焦って着物の裾を自分で踏みつけてしまい
ツツジは再び地面に倒れ込んだ。
「う…っ、…」
全身がズキズキと痛くてまた吐きそうだった。
地面に突っ伏したまま蹲っていると、暫くして足音が近寄ってくる。
「何をやってるんだ」
男の声が降ってきたがツツジは顔を上げるのが精一杯だった。
「おいて…いかないで…ぇ…」
必死に声を絞り出すと、男は一瞬目を見開いたがすぐに呆れたようにため息をつき
ツツジの身体を軽々と持ち上げた。
遠ざかっていく地面を見つめながら、
ツツジは遂に張っていた気が解け、そのまま意識を失った。
ともだちにシェアしよう!