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黒馬と共に 7

確かに、貰えるとしたら何がいい?という国の執拗な問いかけに嫌気がさし 少々の人手不足を感じていたのもあり、 人間を、などと言ってしまったのは己ではあるのだが。 ゼアレスは涙と剥がれ落ちた化粧と吐瀉物と泥とで見るに堪えない状態になっている存在を横たえ 自分の発言に後悔した。 どうせこちらの意見など聞きはしないだろうと思って適当なことを言わなければよかった、と。 今は無惨な状態だが、相当に飾り立てられていたのだろう。 重苦しい着物に包まれている所を見るに、恐らくは相当に上質なものだったに違いない。 故にこんなに弱く、今にも壊れそうなのだ。 「やはり折れてるな…」 彼の左足は酷く腫れ、足首あたりは特に変な色をしていた。 恐らくは事故の衝撃で怪我をしたのだろう。 運んでいた時にそうではないかと思ったが改めて確信した。 それでも立ち上がってついてこようとした姿を思い出し、 やれやれとため息を零した。 「ゼアレス…持って来ましたけど」 部屋に男が入って来た。 頼んでいた治療道具を運んできたらしい。 「ああ、すまない。」 彼から道具を受け取り、仕方なく治療に取り掛かる事にする。 山の上であるしあまり大きな怪我を想定した道具はないのだが、出来る限りを尽くすしかない。 「その子だけ?またごちゃごちゃ来るのかと思ってたけど」 「他の者は崖の下に落ちたらしい」 「あっそう…」 男は興味なさげに呟きながらも、水差しからボウルに水を注いでいて一応手伝ってくれるらしかった。 一応他の傷も見ておこうと重苦しい着物の帯を解くと、白い肢体が露わになる。 身体にはいくつかの傷跡があったが、最近できたものではないようなものもあり 火傷のようなものもあった。 「……なんだこれは…」 「こういう趣味と思われてたりして」 「は?」 男と顔を見合わせる。 彼は肩を竦めて、わからないというような顔をした。 とりあえず目に見えるところは一頻り治療を施したが、男の体とはいえ一応サキュバスとかいう生き物の体だと考えてしまうと 確かにあまり見るのも憚られるような気がして ゼアレスは逃げるように治療道具をまとめて去ることを決意した。 「後は、頼んでもいいか…?とりあえず私の服を着せていい…」 「え?僕にやれって?このただの庭師の僕に?」 「すまん…」 男に無理やり押し付け、ゼアレスは部屋を脱出した。

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