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ひとのかたちをしたやさしさ 6
ゼアレスは深いため息を溢しながら、書斎で頭を抱える。
目覚めたばかりで良くわかっていないからかもしれないが、
こちらを恐れるでもなく、かと言って機嫌を取ろうと媚びへつらうわけでもない。
どうやら厄介なやつが来てしまったらしい。
上質だと思ったのは間違いで、床に寝そべって平気でパンを貪るような品性のカケラも無いあれのどこが極上のサキュバスなのかはまるで分からないが
目に毒なのは確かだ。
雪のように白い肌に、花のように深い赤い髪。
油断していたとはいえ服を掴まれたことも驚きだし
あの瞳に見上げられた時は頭が真っ白になりかけてしまった。
長らく人と交流がなかったせいもあるかも知れない。
大体の人間が勝手に恐れて逃げ出していくし、
向き合ったとしても嘘で塗り固められた仮面を付けたような状態で
こちらに良い顔をしてくるのは必ず下心のある人間ばかりだ。
いつも蜂蜜が側にいるせいか、そういった偽り塗れの人間は余計に汚く見えてしまうのもある。
人が嫌いだ。
だからこうして遠ざかって生きている。
あの男も、ただやり口が上手いだけでそんな人間の一員なのかもしれない。
見てくれはどれだけ美しくても、国が寄越したモノだ。
信用してはいけない。あまり関わってはいけない。
蜂蜜は気に入っているようだが、ゼアレスは一刻も早く遠ざけたい存在だった。
ツツジという、花の名前をしているのもまた
厄介な存在だ。
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