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ひとのかたちをしたやさしさ 8

「うーん…」 そもそも綺麗さとは程遠い見た目だと自覚しているものの、 せめて清潔にはしておきたいものだ。 とはいえ清潔だった時の方が少ないため、よく分かっていないのだが。 とにかくせっかく洗面台までたどり着けるようになったし暇なので何か自分磨きをしようと蛇口を捻る。 綺麗な水が流れていて、なんて贅沢なことだろうと思いながらもその水で顔を洗った。 「あ、これで頭洗えるじゃん」 ツツジは脳死で発明をし、水を出しっぱなしにして洗面台に頭を突っ込みわしゃわしゃと洗った。 水が冷たかったが、綺麗な水で洗えるだけマシだ。 「うわ、と…片足で頭洗うの難しいな…」 両手を使って洗うとフラフラしてしまって、 どうにか肘で体を支えながら洗う。 案の定着せられていたシャツはどんどんびしょびしょになっていくが、一度やり始めたら今更やめるわけにはいかない。 石鹸もなしにとにかくやれるだけ洗ってみていると、視線を感じ 水で濡れる顔を拭いながらそちらに目をやった。 蜂蜜が目をまん丸にしてこちらを凝視している。 「あー、はは、髪の毛洗おうと思ってさ…」 ツツジは洗面台に顔を突っ込んだまま笑いながら自分の頭を指さした。 純粋な青い瞳にはどう写ったのか知る由もないが、 蜂蜜は飛び上がるように踵を返し部屋を出て行ってしまった。 着替え持ってきて貰えばよかった、と思うのであった。 ツツジは苦戦しながら、やれるだけの事はやったと自分で納得する領域までやり遂げ ぽたぽたと水滴を滴らせながら顔を上げた。 「今度はなんだ!」 急に低い声が部屋に転がり込んできて、ツツジはびっくりして身体のバランスを崩してしまった。 そのままずべしゃと転け散らかし、背中を壁に強打してしまった。 「い、いったぁ…!」 「何をやってるんだお前は!?」 「おじさぁん…頭…洗ってたんだって…」 駆けつけた男に怒鳴られ、ツツジは泣きそうな声を出しながら背中をさすった。 背中がありえないほどビリビリと痛んでいる。 「床が水浸しだ…」 男は呆れたように呟き、ツツジの前にしゃがみ込んだ。 ツツジはなんとか体勢を立て直し、彼に向き直ると頭から水を滴らせながら苦笑した。 「髪を洗いたかったのなら言えばいいだろう! ここで洗うやつがあるか!」 「へへ…ごめんなさい…」 一応謝るが、領主は呆れすぎてものが言えなくなったらしい。 髪から滴る水が目に入りそうだったので、髪を掻き上げながら 洗面台を掴んで立ち上がろうと努力した。 「よいしょ…」 少し苦労はあるがなんとか一人では立ち上がれるようにはなった。 相変わらず水は無限に滴ってくるが、シャツももうぐっしょり濡れて手遅れだしこの際気にしないことにした。

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