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ひとのかたちをしたやさしさ 10

「おじさんはなんで俺に優しくしてくれるの?」 この人は殴らないし、怒っているようなのに怒っていないみたいだ、とツツジは不思議に思った。 確かに人間を掻っ捌いて熊の餌にしてしまいそうな雰囲気ではあるのに、 茶色い瞳は戸惑ったように光っていて、 その瞳は馬とか、そんな優しい生き物の瞳に似ている。 「…っ、やめてくれ」 「わ!?」 男はツツジの顔を大きな手で覆い無理矢理引き剥がした。 「勘違いするな。ここで死なれたら困るからだ。 私はお前に触れる気はない」 男はそう言うと、さっさと立ち上がってしまった。 ツツジは彼を追いかけたがったが、立ち上がれず床に四つん這いになるようにして彼を見上げた。 「え…やっぱ俺臭かったかなぁ…?」 「はぁ…そうじゃない」 「あ!そっか濡れたらやだもんね!乾いたらOk!?」 「あのな…!お前は私が恐ろしくはないのか?!」 声を荒げる男に、ツツジは眉根を寄せて首を傾げた。 「え…?なんで?」 「なんでって…分かるだろ…」 「おじさんこそ俺のこと怖くない?」 「は?」 ツツジはじいっと男を見上げた。 “化け物”と詰られた記憶が不意に蘇る。 男は驚いたような顔でこちらを見下ろしていた。 ツツジは床についた手を握りしめて、小さく、力なく笑った。 「もしかして怖い?」 人を殺したいと思ったことはない。 ツツジは自分がここにいる理由を改めて思い知らされて、 男の返事を聞くのが急に怖くなり、諦めるように暖炉に向き直った。 「……やっぱ、なんでもない。今のなし、忘れて」 ツツジはそう言って彼のローブに包まり身を縮こめた。 暖炉の中で炎が燃えている。 ここへ来いとでもいうように揺らめいて。 この人はたしかに恐れられているのかもしれない。 顔も怖いし図体もでかいし。友達も居なさそう。 だけど、人間だ。 じゃあ俺は?

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