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ひとのかたちをしたやさしさ 11
ここで死なれたら困る、という言葉が
いつまでも脳裏に焼き付いていた。
失敗したら生きて帰れないはずなんだけど。
ていうか失敗しなくても死ぬことは決まっているのだけど。
結局男は着替えとタオルを持ってきて、床の掃除だってしてくれた。
その後もいつも通り食事と薬を処方して、
ずぶ濡れになったからと包帯だって変えてくれた。
何か居心地が悪そうにしていたが、それは恐怖とも嫌悪とも違うようで
それがなんなのかはわからないが不思議と嫌な気はしなかった。
ツツジは真っ暗な部屋の中、暖かいベッドの中で天井を見上げながら
瞬きを繰り返した。
やがて、つ、と涙が頬に伝う。
それを慌てて拭ったが、
次の瞬間に今までの壮絶な人生が蘇ってきて
忘れようとしているし忘れていると思っていたのに、
どうしてこういう時思い出してしまうのだろう。
「……あー…そっか俺…、
なんで優しくしてくれるのーって知ったような口聞いちゃったけどさぁ…」
誰にともなく呟きながら、次々と溢れる涙に思わず顔を覆った。
「人に、優しくされたことなんて、無かったじゃんね…」
精々、誰かが優しくされているのを、見ていただけだ。
誰かが都合よく自分を使うのを、優しさだと思い込んだだけだ。
男は何も言わない。笑いもしない。
だけど、多分、人として扱ってくれている。
「ふ…っ、うう…っ」
突然、胸に中からさまざまな感情が込み上げてきて
堰を切ったように溢れ出した。
まるで子犬を抱くように傷付けぬよう優しく抱き上げられたことも
自分の服を脱いで貸してくれたことも
お茶を淹れて渡してくれたことだって
怪我を手当てされたことすら、
今まであっただろうか?
ツツジは、自分の複雑な感情に名前をつけることができず
ただ布団の中で声を殺して泣いた。
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