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心の声が聞けたなら 1

わからない。 ゼアレスは薄暗い廊下の壁に背を預け頭を抱えていた。 開きっぱなしの扉の向こうから啜り泣くような声が聞こえてくる。 ようやくホームシックにでもなったのだろうか。 そんなことになっても分かりきっていた事だ。 もっとピーピー泣いて逃げ回ることも予想していたし 勝手にいなくなるとさえ思っていた。 対面しただけで命乞いをされてきた。 人より力が少し強かったせいか、 それとも周りが言うように心が凍ってしまっているのか 意図せずとも人を傷付ける。 だから人を遠ざけ人に遠ざけられるのは、当たり前と思っていた。 ツツジはするりと、気付けば近くに侵入してくる。 今まで誰も踏み込ませなかった、いや踏み込もうともされなかった領域に いとも簡単に入ってきて、またするりと抜けていく。 行動は謎だし、不可解だし、厄介なのに あの瞳に見つめられるとどうも調子が狂ってしまう。 なぜ怖くない? なぜそんな火傷を負った? なぜそんなに傷付けられている? なぜ、笑う? そしてなぜ、泣いている? どれも理解ができない。予想すら立てられない。 怖くないか、と聞かれたのは初めてだった。 隙間風だろうか、ひんやりと冷たい風が頬を掠めていって ますます虚しい気持ちになり ゼアレスは唇を噛み締めそこから立ち去った。

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