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心の声が聞けたなら 3

確かに普段からため息は多い。 蜂蜜も指を折り数えてくるほどだ。 だが仕方ないことだ。 何年も脅かされず変わらず平穏だった日常が突然おかしくなったのだから。 ゼアレスは食事を乗せたトレーを持ったまま 開きっぱなしの扉の前で立ち止まっていた。 庭師に頼んでも、僕は庭師だぞいい加減にしろ、と怒られてしまったため 結局自分が運ぶほかない。 うじうじしていても仕方ない。 意を決して顔を作り、 敵地に戦いにでもいくつもりで部屋に入った。 夕暮れのオレンジ色の中で、ツツジは窓に張り付くようにして外の景色を見つめていた。 替えの着替えがなく、仕方なくゼアレスのシャツを着させられていてサイズによってワンピースのようになっている。 足には大袈裟な包帯。 昨日変な髪の洗い方をしたせいか、いつも以上に縦横無尽に跳ねまくっている赤い髪。 白い肌がオレンジ色に染まっていて、思わず目を逸らした。 「あ、おじさん…!」 ツツジはこちらに気付くと、壁をつたいながらフラフラと近寄ってくる。 その危なっかしい足取りに思わず身体が動きそうになるが ゼアレスは無視をしてテーブルの上に食事を置いた。 「ねえ、あの子もここにいるんだね」 「……あの子?」 ツツジはベッドまでたどり着くと、四つん這いでベッドの上を這い テーブルの横までやってきた。 「馬だよ、あの黒い子!」 思わず彼を見下ろすと、瞳はいつものように輝いていたが 瞼が腫れていた。 昨晩泣いていたせい、か。 「窓に耳をくっつけたらね、声が聞こえた気がして あの子助かったんだよね?」 崖に落下したという馬車をひいていたらしい一頭の馬、 この屋敷まで辿り着き、ツツジがいる場所まで連れて行った賢い馬だ。 「……ああ、馬小屋にいる。山に放置するわけにはいかないからな」 「そっか!よかった あの子いっぱい飾り付けてたでしょ?」 「………どうだったかな」 「付けてたんだよ!俺と同じ めっちゃ重そうでさ、でもないほうが綺麗だなって思って ほら。おじさんが助けに来てくれた時に、そう思ったんだ」 ツツジはそう言って嬉しそうに笑っている。 泣き腫らした瞼が嘘のように純真な笑顔だった。

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