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心の声が聞けたなら 4

どういった経緯でここへやって来たのかはわからないが 彼の立場は、”生贄“に他ならないはずだ。 飾り立てられ、恐ろしい領主のご機嫌取りにこの山奥に連れてこられた。 はずだが、なんだか親戚の家に遊びにきた子どものような無邪気さに見える。 「でも俺は飾られてた方が結構いい感じだったと思うんだ いく時に、結構いけてる、まごのての衣装?って言って褒められたし 今は結構ブスになっちゃったから信じられないかもしれないけど また化粧すれば結構いけると思うんだけど」 ツツジは自分の頬を両手で潰したり引っ張ったりした後に、 ね?、と謎の同意を求めて見上げてくる。 ゼアレスは思わずその縦横無尽に跳ねている髪の毛に触れた。 「ブスではない」 「…へ?」 「お前は美しいだろ」 あの重苦しい着物も、地面でぐちゃぐちゃになっていた頭飾りも、ドロドロになっていた化粧も 元々がどのようだったかは皆目検討も付かないが 今の彼には不要に思えた。 「少し髪は梳かした方がいいようだが…」 そう呟き、ハッとなる。 何を普通に髪の毛を触って褒めちぎってしまっているのだろう。 慌てて彼から手を離す。 ツツジは目を見開いたままこちらを見上げている。 「…かん、勘違いするな…客観的感想だ、深い意味はない」 こほん、と咳払いをするが居た堪れなさがじわじわと込み上げてきて 茶を注ぐのを放棄して立ち去ることを決意した。 しかしすぐにツツジに腕を掴まれる。 「おじさん」 跳ね除けようという意識がなぜか芽生えなかったせいだった。 ツツジに腕を引っ張られ、やがて胸元を掴まれ引き寄せられた。 そして目の前が暗くなる。

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