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心の声が聞けたなら 5
一瞬何が起こったかわからなかった。
唇に何か柔らかいものが触れている、と気付いた時には
頭を掴まれて、ちゅ、ちゅ、と唇を喰まれている。
「!!!?!!?!??」
思わず彼を引き剥がすと、ベッドの上に膝立ちをしていたツツジは不満そうに眉根を寄せていた。
「な、なにを…!!?!」
「だって、おじさん急に褒めてくれるんだもん
ちゅーしたくなるじゃん」
「は!!!?は!!!?バカかお前は!!!?」
「髭がもさぁってしてくすぐったかった」
ツツジはヘラヘラと笑っていて、
その悪びれていない様子に頭に血が昇るのを感じた。
「さっさと飯を食って、寝ろ!!!!」
無我夢中で叫び散らかし、ゼアレスは全速力でツツジの元から逃亡した。
大理石の廊下を滑るように走りながら、思わず唇に触れる。
柔らかい感触だった。
あれって、き、キス?とかいうやつ?
生まれてこの方経験したことのない行為にゼアレスは叫び声を上げながら
適当に置いてあった斧を掴み屋敷を飛び出した。
あいつは危険だ!!!!!
そう強く脳が警戒している。
森を駆け抜け、手頃な木までぶち当たるとそれに向けて思いっきり斧を振った。
木は割り箸のように簡単に真っ二つになり、ゼアレスは2本目の木を探す。
とにかくなんでもいいからこの謎のエネルギーを発散させたかったのだ。
あの無邪気さは油断させるための計算なのかもしれない。
だとしても唇を重ねることになんの意味があるというのか。
ゼアレスは不可解さに雄叫びをあげ、バサバサと鳥たちが一斉に飛び立っていった。
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