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神の棲まう庭 1

折れた足がどれだけ酷い状態なのかは分からないが、最初に比べて包帯の量は少しばかり減っていた。 部屋の中をウロウロした甲斐あってか壁を伝いながらの歩行も難なく出来るようになってきたし 少しの距離だったら多少足は痛いが、支えがなくても歩くことはできる。 「蜂蜜ちゃん!見て!結構、治って、きた…かも!」 フラフラしながら壁を離れ歩いてみせると、蜂蜜は嬉しそうに微笑んで拍手をしてくれた。 ツツジはなんとかまた壁に戻ると、ふう、と息を吐いた。 「へへ…もうすぐお風呂入れるかも…」 そんなことを夢見ていると、蜂蜜が扉の外を指差した。 そして部屋を出ては顔だけ出口から出している。 「え…、でも怒られないかなぁ… おじさんにウロウロするなって言われてるし…」 ツツジが不安げに呟くと、蜂蜜は再び部屋に入ってきて それでも行こうとでもいうように外を指さす。 少し迷ったが、同じ部屋にずっといるのも飽きてきたところだ。 それに蜂蜜がいるのでもしかしたらあんまり怒られずに済むかもしれない。 壁を伝って歩き部屋の外に出た。 大理石の床が敷かれた大きな廊下、ピカピカに磨かれた床はひんやりと冷たい。 蜂蜜についていくとすぐに階段に差し掛かった。 ツツジは仕方なく階段に座るようにして降りることにした。 天井は高くて天窓から光が差し込んでいる。 どうやらツツジが思っていた以上の豪邸、寧ろ宮殿に近いのかもしれない。 短い階段を降り、また少し廊下を進むとまた階段だ。 宮殿観光もそぞろに必死で蜂蜜についていった。 やがて大きく開け放たれた扉をくぐると、そこは外のようだった。 石でできた廊下が別の建物に続いていたが、 蜂蜜はその建物には行かず廊下から太い柱の間を抜けて緑色の芝生の上を駆けていく。 ツツジも後を追い、素足で芝生の上に降りたった。 柔らかな草の感覚が妙に心地よくて、そよそよと風に髪が揺れる。 やってきたのは庭のようだった。 部屋の窓から見ていたのでなんとなくそこが立派な庭なのだろうとは思っていたが 実際に来てみると相当にすごい。 さまざまな花や木々が植っていて、小鳥たちはずっと何かを喋っている。 小さな噴水があり、蜂蜜はその縁に登ってニコニコしている。 「わぁ…すごいね」 綺麗に管理された庭、こんなに標高が高い場所なのに動植物は活き活きしている。 蜂蜜は色とりどりの大きな花を咲かせている花壇の前で座り込んだ。 ここまで来るのに少々体力を使いすぎてしまったようだ。 「ふう……ちょっと休憩」 そう言って笑うと、蜂蜜はぴょこんと噴水の縁から飛び降りてぱたぱたとどこかに走っていってしまった。

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