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神の棲まう庭 2
森はあんなに寒かったのにここは陽がよく当たっているおかげか少し暖かい。
しかし吹く風はやはりちょっと冷たくて、ずっと部屋の中にいたから新鮮だった。
花壇の花に顔を近付けると良い香りがした。
「綺麗だなぁ」
花に対してそんな風にしみじみと思ったことは無かったのだが
なんだかここに来て安心して眠れるし食べ物にも困らず、穏やかな気持ちを維持できているせいか
素直にそんなことを感じてしまう。
人間はやはり余裕が大事なのかもしれない。
暫くそうしていると、ぱたぱたと蜂蜜が戻ってきてツツジを指差す。
後ろから布とポットを抱えたボイラースーツ姿の青年がやってきて
ツツジを見下ろすと小さくため息を零した。
「なんだ君か」
「あ…ども」
「全く何事かと思ったら」
青年はそう言いながらツツジに布をかけてやりポットから何かを注いで渡してきた。
温かいお茶のようだ。
男は無表情でニコニコしている蜂蜜とは対照的だ。
しかし彼は一体何者なのだろう。
「僕は庭師。以上」
男はぶっきらぼうにそう呟く。
「ここの庭お兄さんが全部管理してるの?」
「まあ庭師だし」
「すごいね」
「蜂蜜のためだ」
庭師の青年は頭を掻きながら、いつの間にかツツジの隣に座っている蜂蜜を顎で指した。
蜂蜜はどうやらこの屋敷では地位が一番上らしい。
ツツジは淹れてもらったお茶を一口飲んでみた。
いつもゼアレスが持ってくるものとは違う味と香りだった。
「いい匂い。美味しいねこれ」
ツツジは青年に笑顔を向けた。
男は光のない沈んだ茶色い瞳でじっとこちらを見てくる。
不思議に思いながらもヘラヘラしていると青年はため息をつきポケットから手袋を取り出して装着し始めた。
「頭空っぽなだけかと思ったら、随分と壮絶だ」
「へ?」
「…ゼアレスは彼女いない歴=年齢。
蜂蜜には絶対に触らないこと、溶けるから。
それから炊事場は開けないように。」
青年はそれだけ言い残すと去っていってしまった。
仕事に戻るのだろうか。
それよりも気になる発言を残されたツツジは暫く固まった。
隣でにこにこしている蜂蜜を見る、いい天気とはいえ肌寒いのに随分と薄着をしている。
「溶けちゃうの…?」
本当だとすれば大変に恐ろしいことである。
蜂蜜は両手を合わせてペコリと頭を下げてきた。
なんの挨拶なのかはわからなかったが、ツツジもつられて礼をしてしまった。
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