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彼方側からの使者 1
「おやおやシュタインガルド様
こんな朝早くから活動していらっしゃるとは、ご立派なことです」
正面玄関から森へと続く道を誰かが歩いてきた。
上等なタキシードに身を包み手荷物は大きなスーツケース一つ。
ピカピカの革靴に、チェーン付きの眼鏡。綺麗に撫でつけられた金色の髪。
とても山を登り、森を抜けて来られるとは思えない格好だった。
男はゼアレスの前まで来ると胸に手を当て優雅な仕草でお辞儀をした。
「カザリ、早いな」
「ええお呼びとあらばいつでも」
男は細い目をさらに細めて微笑んだ。
緑色の虹彩、縦に伸びた瞳孔は獣のような瞳で
耳輪もチラリと見える歯も尖っていて、彼が人ならざるものだと見て取れる。
この男は謎が多い男ではあるのだが、ゼアレスにとっては下界とここを繋ぐ存在であった。
誰も寄せ付けぬよう、辺鄙な所に立っているこの屋敷を唯一出入りし
間者を使って国との外交もしてくれるし、生活に必要な日用品も運搬してくれる。
「ローザ様…!」
彼はこちらを見もせずに黙々と作業をしている庭師を見つけると
瞬間移動のような速さで梯子の下に立ち
勝手に庭師の手を取って口付けている。
「ああローザ様、ご機嫌麗しゅう。
本日もお変わりなく、お美しい…」
「……。」
庭師は無表情だったか、どことなく嫌そうに口を歪めて無視をしている。
あんまり見ると庭師に怒られそうだったので、二人の横を抜け屋敷に入った。
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