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彼方側からの使者 3
大きなテーブルの上にカザリはスーツケースを置いていた。
「相変わらず掃除が行き届いておりますね」
「あまりすることがないからな」
「シュタインガルド様は勤勉でいらっしゃる」
山は広大とはいえ、生活範囲は拠点となっているこの屋敷とその周辺くらいで
確かに時々山の様子を見に行くことはあるものの、むやみやたらに彷徨いたりはしない。
自分の領土とはいえ山には山の住民がおり基本的には彼らの領域で、あまり手を出すことはできない。
屋敷の中もそれと似たような形で
庭は庭師が一切触らせてくれないし炊事場も立ち入ることは許されないため
ゼアレスが出来る事といえば普通の生活を送り、時々領主としての雑用をするぐらいなので
空いた時間は建物の修理やひたすらな掃除に費やす事ぐらいしか出来ないのだ。
「頼まれていたモノですよ。油と砂糖、小麦とワインそれから
ヒマラヤ岩塩に薄口醤油と豆板醤と…」
カザリはスーツケースの中から3、4kgはありそうな砂糖の袋やら
油の入った瓶やらいろんなモノを取り出してテーブルの上に出していく。
いつも質量保存の法則はどうなっているのかと思うほどありえない量が次から次へと出てくる。
「それから衣服です。サイズが合えば良いんですが
あと、靴ですね」
カザリは衣服の束と靴をゼアレスに渡してくる。
「ああ…感謝する」
「おや、蜂蜜様!ご機嫌いかがですか」
いつの間にか部屋へ来ていた蜂蜜にカザリは跪いて挨拶をしている。
「蜂蜜様にはこちらを、少し西の方へ立ち寄って参りましたので
お土産ですよ」
カザリはスーツケースから植木鉢のようなモノを取り出し、蜂蜜の前に置いた。
蜂蜜が両手で抱えてやっとのような大きな鉢で
小さな木のようなものが植えられている。
カザリが来ると屋敷は少し華やかになる。
蜂蜜は表情豊かだが、ゼアレスを含め住民たちはほとんど会話はしないしあまり顔も合わせない。
とはいえここ最近はツツジのおかげで騒々しいくらいだが。
「蜂蜜様、少し大きくなられましたね」
「そうか?毎日見ているからわからん…」
「ようやく少し成長が出来る、ということでしょうか」
目を輝かせて飛び跳ねていた蜂蜜は、またどこかに走って行ってしまって
カザリはまるで親戚のおじさんのような顔で微笑んでいる。
数十年前までこの屋敷は住民を失い、荒れ果てていた。
庭も雑木林のようだったし、あちこち埃塗れで雨漏りや壁の倒壊も酷かった。
確かにその頃に比べれば蜂蜜は少し背丈も伸びて、よく笑うようになったかもしれない。
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