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彼方側からの使者 4

「そういえば肝心のそのサキュバスとかいう方は?」 「ああ…それなんだが……」 今はあんまり思い出したく無かった存在の話を振られ、 ゼアレスは顔を顰めながらため息を零した。 「俺の話?」 急に後ろから声がして、心臓と共に思わず飛び上がりそうになった。 振り返ると、背後にあった椅子の背もたれの上からツツジが顔を出している。 「おやこれは驚きましたね。いつの間に」 「さっき蜂蜜ちゃんと一緒に来たんだけど?」 ツツジは、口を尖らせている。 そう、こういう所があるのだこの男は。 まるで猫のように人のテリトリーに静かに侵入してくる。 「あぁ、申し遅れました。わたくしはカザリと申します。 シュタインガルド様には色々と贔屓にしていただいております。」 カザリは丁寧に挨拶をし、椅子から降りてきたツツジは 包帯を巻いた足を引きずりながら、どうも、とぺこりと頭を下げている。 「俺は、ツツジ…えっと、おじさんに助けてもらった」 「ええ存じてますよ。随分とお労しいお姿で…」 「あ、これ?なんか気付いたら折れてたんだよね〜 それで俺痛すぎて吐き散らかしちゃってさ、 おじさんと初対面だったのに。よく引かれなかったよね」 ツツジは要らん事を言いながら、へへ、と何故か照れて笑っている。 「その格好もまぁなんというか、彼シャツでお過ごしでしたか。 もう少し早く呼んでくだされば…」 カザリはツツジの酷い格好に苦笑している。 彼が元々着ていた着物は普段使いできるようなものではないし、 荷物やらも恐らく奈落の底だったため仕方がなかったのだ。 「え?そうかな。俺結構好きだけどな 動きやすいし、あとちょっとおじさんの匂いするし」 ツツジはまた要らん事を言い、 ゼアレスはくそでか咳払いで誤魔化すのだった。 「お前の服だ、とっとと着替えろ」 ゼアレスは渡されていた衣服を彼に差し出した。 「え?俺の…?」 「ええ。サイズが合わないようでしたら調整致しますので どうぞご試着なさってください」 ツツジはどこか嬉しそうに目を輝かせている。 「あ、ありがとう…」 「良いから早く取れ」 彼に押し付けるようにして荷物を渡すと ツツジは衣服の山を両手に抱え、へへ、とまた笑っている。 「はぁ…私は仕事をしてくる…」 ゼアレスはあんまりその笑顔を見ているとせっかく殺しかけた煩悩が蘇生しそうだったので 受け取った貴重品を収納すべく、大荷物を抱え上げ二人に背を向けて部屋を後にした。

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