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彼方側からの使者 6
「…この土地はやはりあなたのような方を引き寄せるようですね、ツツジ様」
カザリは微笑み、スーツケースを閉じるとこちらへ歩み寄ってくる。
「俺のような…?どういうこと…?」
「あなたには不思議な力が備わっている、という事です」
不思議な力、ツツジは思い当たる節に思わず彼から目を逸らした。
「……俺が、誰だか知ってるの…?」
そういえば彼は下界とここを繋ぐ存在だと言っていた。
自分は全く存じ得ないのだが、どうやら巷ではツツジが教祖的存在になっているらしいと聞く。
そのことを彼が知っていてもおかしくはない。
もしそれをこの屋敷の住民に知られたならば…。
「そうですね、あなたは少し奇特な力を授かったようです。
しかしそれは神からの贈り物。
誰にでも与えられるものではないのですよ
崇高な魂に、祝福されるものですから」
カザリはそう言ってツツジの前に跪き、片手を取って指先に口付けてきた。
「ご安心ください。
あなたの下界での立ち位置をわたくしの口から
シュタインガルド様にお伝えすることはありません。」
「本当に…?」
「ええ、わたくし共はあなた様の行動を脅かすような事をしてはならぬのですよ」
カザリの言葉はよくわからなかったが、
恐らく、ツツジさんだって殺したくてやったわけじゃないですもんね、などと思ってくれたという事だろうと勝手に解釈して
ツツジは感動してしまうのだった。
「ありがとうございます…あの、俺…今まで誰にも信じてもらえなかったから嬉しい…」
「ツツジ様……」
「でも本当は…いつかは、言ったほうが良いのかなって思ってる…
俺の運命は決まってるから、
だから…役目が終わったらちゃんとおじさんに話したい
でも、それまでは、追い出されないようにしなきゃいけないから」
任務が上手く行ったら、永遠の別れの前にきちんと挨拶はするつもりだった。
だけどそれまでは自分は一応”極上のサキュバス“の設定でいなければ。
「ツツジ様…一つだけ、よろしいですか?」
「…?うん…」
「あなたご自身の心をよく見つめてください。
それがあなたの力の鍵となるのです」
「え…?」
カザリの言葉にツツジは彼の顔をじっと見つめた。
緑色の瞳は怪しく輝いていて、その不思議な言葉は纏わりつくようにツツジの頭を通過していった。
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