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彼方側からの使者 7

「なるほどな」 不意に声が響き、そちらを見ると部屋の入り口に腕を組んだ庭師が仁王立ちしていた。 「あっローザ様…」 カザリは苦笑しながら立ち上がる。 庭師はツカツカとこちらへやってくると、床に置いてあった大きな植木鉢を抱え上げた。 「個性持ちなら誰でもいいらしい」 立ち去る寸前に心底冷たい瞳でカザリを睨み、そのまま早歩きで扉へと向かっていく。 カザリはすぐさま彼を追いかけて行った。 「勿論一様に敬意は払っております、ですがそれとこれとは…」 「もういい」 「ちょ…ローザ様…!お待ちくださいませ!」 「ついてくるな」 2人は行ってしまい、ツツジは一人だだっ広い部屋に取り残されてしまった。 「…えーと…」 仕方なく手に持っていた衣服をテーブルの上に置き、その中の一つを広げてみた。 「これ新品かなぁ?俺が貰っちゃってもいいのかな…」 汚れも破れもほつれも無い美しい衣服にツツジはなんだか申し訳ないような気持ちになりながらも 一応着替えてみることにした。 ワンピース状態だったサイズの大きなシャツも本当に気に入ってはいたのだが いつまでも彼の服を借りておくわけにもいかない。 足の曲げ伸ばしが難しく少し苦戦したが、包帯も薄くなっているおかげでどうにか上下で着ることができた。 ツツジはキョロキョロとあたりを見回し、部屋の奥の方の壁に放置されている姿見を発見するとそちらへ歩いて行った。 豪華な飾りが施された姿見は、ツツジの身長の倍の大きさであったが 乱雑に置かれている割に綺麗に磨かれている。 「似合ってるのかなこれ…」 ツツジは鏡に映る自分の姿を確認する。 一番上のボタンがチャイナボタンになっている以外は白いシンプルなシャツに、裾が広がった黒いワイドパンツ。 靴は今の所片方しか履けなかったが、サイズは特に問題なさそうである。 下界にいた頃は服装など気にしたことが無かった。 とりあえず必要最低限の着れるものをどうにかして着ていたし、 最悪布を纏って紐で縛っただけなんてこともあった。 綺麗な服を着るのはあの重苦しい着物が最初で最後と思っていたのだが。 この服は綺麗で軽くて動きやすそうだ。

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