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彼方側からの使者 8
「カザリはどこへ行った?」
声が聞こえて振り返ると、仕事をすると言って出て行ったゼアレスが戻ってきたようだった。
「おじさーん!見てみて!」
ツツジは大きな声で男を呼んだ。
「そんなところにいたのか」
ゼアレスは呆れたように呟きながらもこちらへ来てくれる。
ツツジも彼の方へとフラフラと歩み寄った。
「どうどう?似合う?」
彼が近付いてくると、ツツジは両手を広げて見せた。
男は目を細めて押し黙っている。
「…えへ…おかしいかな…?」
ツツジは慌てて自分の髪を撫で付けて少しはまともに見えるように誤魔化そうとした。
元々癖っ毛な髪はまとまりがないし、そもそも服どころの騒ぎではないのかもしれない。
「…いいんじゃないか…別に、おかしくはない、と思うぞ」
ゼアレスは明後日の方を見ながら小声でごもごもと呟いた。
その言葉にツツジは背伸びして思わず彼に顔を近付ける。
「本当?」
「っ、ああ…さっきよりはマシだ」
「よかった〜変じゃないなら及第点だよね」
褒められたと感じたツツジは少々舞い上がりながらも他の服も見てみようと歩き出し、
片方しか履いていない靴のせいかいつもと違うバランスに思わず躓いた。
うわ、と零しながら蹌踉るとゼアレスの逞しい腕に身体を抱くように支えられる。
「あは、靴ひさびさに履いたから変な感じで…」
「全く、お前を見ているとハラハラする…」
「え?ドキドキじゃなくて?」
「ドキドキもするが…」
「するの!?」
「違う。そういう意味じゃない」
ゼアレスに目を三角にして怒られたが、ツツジは構ってもらえて嬉しくてヘラヘラしていた。
流石のツツジも昨晩のことを少しばかり気にしていて、無視でもされるかと思ったがゼアレスの態度はあまり変わらないようで安心する。
本当にこの人は変わらない、
だけど自分が恐ろしい存在だと知ったら
下界でなんと言われているか知ったら
きっとこうはいられないのだろう。
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