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魔法の業の深さ 3
今朝方は厳しく接する!と誓ったというのに、いざ“あちら側”の意見を聞かされると何故か心が重くなる。
そんな気持ちになってしまうのが自分がただの人間である証拠なのかもしれない。
それともただ弱いだけか。
ゼアレスは一人でとぼとぼと屋敷に戻って来ては、
なんとなく誰とも顔を合わせたくなくて
玄関前の階段に腰をかけてぼんやりと景色を眺めた。
“個性持ち”は、極々稀に人の間に産まれるとされる存在だ。
魔女がこの世界を去った後から現れ始めたそれは、
魔女の名残とも、気まぐれな呪いとも言われるが希少ゆえにその存在があるということ自体ほとんど知られていない。
魔法の元となる“魔力”を持たない人の身でありながら、魔法と紛う程の人ならざる力を持つ。
そしてあくまでも身体は人間ゆえに、その力は本人の意のままに操れるかといえば必ずしもそうではなく
本人の意思とは無関係に発揮され続ける。
説明だけを聞けば随分といいようにも思えるが、
数千万人、あるいは数億人に1人の稀な存在だ。
今は人里を離れた生活をしているとはいえ、元々は大きな街の貴族の家で育ったため
様々な人種を見て来たゼアレスですら、“個性持ち”という存在を知ったのも見たのも
カザリが連れて来た庭師が初めてだった。
相手の心が読めるという特異な能力を授かった彼は、人の醜さや残酷さに充分すぎるほど沈められ
どんなことが起きても我関せずと無表情で佇んでいるような少年だった。
この屋敷の広大な庭で蜂蜜や動植物達と関わるようになってから少しは人らしい側面を取り戻し
ゼアレスの心を勝手に読んでは貶せるほどにはなったようだが
今もなお踏み込めない領域があるのは感じている。
人ならざる能力を持ち、その存在を知られていない彼らが人の世で人と同じく暮らすのはかなり至難だろう。
迫害され追放され、或いは人としての権利を奪われ利用される。
いずれにせよ、心が壊れるには充分な程の経験は付き物に違いない。
そうと分かっていながら国に返せる程の非情さなど、流石に持ち合わせていないのだった。
とはいえ自分がその繊細な魂を左右してしまう立場だと思うと事情は変わってくる。
どうしたものかとゼアレスは頭を抱えるのだった。
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