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魔法の業の深さ 4

「ウーバーイーツはもう帰ったのか」 庭師の声がしてゼアレスはハッとなり顔を上げ、振り返った。 一体どれぐらいの時間こうしていたというのだろう。 色々考え込んでしまった。 庭師は朝の続きをするのか、 壁にかけっぱなしになっていた梯子の下に立っていた。 「…お前に怒られたと落ち込んでいたぞ」 「……はぁ」 一応伝えてやると庭師は深いため息を零している。 確かに彼の時も悩みはしたのだが、 ツツジとは違い彼は相当に人に辟易していたため最初の頃はゼアレスには近寄りもしていなかった。 そもそもそんな風に遠巻きにされる方が慣れていたので 余計な事をせず彼が助けを求めてきた時以外は必要最低限の振る舞いをしていたのだが、彼にとってはそれが良かったらしい。 今ではなんとなく打ち解けてくれたように思うし、 時々過去の経験の後遺症が垣間見えて心が痛むことはあるものの 彼との生活自体には苦痛を感じたことはあまりなかった。 「あの子のこと…あいつなんて?」 「…まあ自覚はないが、“個性持ち”だろうと」 「はあ…やっぱりか。厄介だな」 一応気にしていたらしい庭師は、ため息をつきながら梯子を登り始める。 クールかと思いきや意外と見えたものに思い悩む、 ゼアレスはついなんとなくカザリとの会話を思い出してしまい それを読んだのか庭師は梯子の途中で足をぶつけている。 「……っ、とに…意味わかんねえ…」 きもすぎる…、と唸っている庭師は滅多に見せない表情で つい観察したくなったがあまりジロジロ見ていたら怒られそうだと感じそそくさと退散するゼアレスであった。

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