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魔法の業の深さ 5

カザリという仕事が出来すぎる男に衣服を貰ったツツジは上機嫌になりながらも 部屋に備え付けられていたクローゼットに洋服を収納していた。 小さなクローゼットは5、6着しまっただけでもかなり充実しているように見える。 「へへ…俺の服、俺の靴」 ツツジはクローゼットの前に座り込んでニヤニヤ笑った。 これまではほとんど何も持たず生きて来た。 何かを持ってもすぐに奪われ、取り上げられ、壊れて失くし この身一つ、五体満足でさえあれば上等な方だとすら思っていた。 それもきっと間違いでは無いのかもしれないが。 「俺のクローゼット、俺のベッド、テーブル、椅子、俺の部屋!」 それでも数えずにはいられない。 ツツジは後ろ向きに寝転がって部屋に置いてある家具を指差し数えた。 やがて死ぬというのにこんなに荷物を増やしてしまって大丈夫だろうか。 でもその時はきっとおじさんが何とかしてくれる、という安心感すらあった。 「あー俺、幸せすぎて死んじゃうかも。 どうせ死ぬなら“幸せ死に”がいいのになぁ〜 でも、任務をこなしてやっと斬首だから ”幸せ死に“になるにはめちゃくちゃいいことをいっぱいしないといけないんだろうなぁ」 一人でベラベラと喋りながら、ツツジは天井を見上げた。 「ならきっとおじさんは”幸せ死に“なんだろうなぁ」 カザリの話では、どうやら彼はこの山を一人で守っているらしかった。 自分一人が助かるためにそんな彼を巻き込んでいるツツジからすれば、想像もできないことである。 「俺はやっぱり…本当は獣の餌か火炙りがいいんだろうなぁ 自分のためにおじさんに嫌なことさせようと、してるんだもんね…」 ツツジは不意に珍しく悲しさを感じて唇を噛んだ。 でも自分にはどうすることもできない。 何故そんなことをせねばならないのかももう覚えていないし、そもそも最初から理解すらしていなかった。 とにかく進むしかないのだ。

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