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魔法の業の深さ 8
ゼアレスは吐き気すら覚えながら、屋敷の中を足早に移動し
やがて洗面所へ辿り着いた。
水道の前に立ち、そこでまた先程の光景を思い出し頭を抱える。
確かにもっと早くカザリを呼んでいれば良かったかもしれない。
最初の日にもっとちゃんと確認していれば。
ツツジは背中に予想以上の酷い火傷を負っていた。
加えて無数の傷跡だ。
まるで拷問でも受けたかのような。
それにあの火傷の仕方は、想像はしたくないのだが
なんとなく予想をしても身震いがする。
何故あんな状態の者を仮にも”贈り物“と称してこんな場所に送り込んだのだろう。
厄介払いにしたってもっとマシなのがあっただろうに。
”個性持ち“と知っての事なのだろうか…?
だとすれば余計に相手方の意向が読めない。
「…なんにせよ…とにかく私を怒らせたいらしい……」
ゼアレスは苦笑しながら自分の手を見下ろした。
本当に、
国に返すなんて非情どころか極悪なんじゃないだろうか。
いかに”個性持ち“が人の里で暮らすことが難しいかを思い知らされる。
白い肌に赤いキズ、本来目を逸らしたくなる光景のはずだった。
それなのに単純に、一瞬、釘付けになってしまった。
そしてすぐに理解が脳を貫いて、絶望になった。
あれだけの仕打ちを受けておきながら、
彼の心が壊れず純粋を保っているのが不思議でならない。
あんな憎悪を、奇跡的に歪まずに受け入れている彼が
もしも歪んでしまったら?
人間には入れない領域。
急にツツジが酷く遠い存在のように思えて、
ゼアレスは両手を握り締めながら唸った。
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