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魔の差す領域 4

誰かが頭を撫でてくれていた気がする。 そんな記憶はないはずなのに。 怖い夢の中で、冷たい風の中で、 誰かの温度を感じたような。 ゼアレスに案内されたバスルームは、脱衣所が無駄に広く 壁一面を使った大きな鏡が貼られていて ツツジの部屋に付いている簡易的な洗面台よりも立派なものが設置されていた。 蛇口も金色だし、メイクなどをする用なのであろう台のようなものもあった。 渡されたタオルを台の上に置き、ツツジは汗でベタベタになってしまった洋服を脱いだ。 もらった洋服は大切にすると誓っているので絶対に綺麗に洗濯しようと決意するのであった。 大きな鏡に自分の姿が写っていて、思わず見てしまう。 身体には火傷や傷が残り、お世辞にも綺麗とは言えなかった。 鏡に背を向けて、首を限界まで回し無理矢理背中を見てみる。 背中には大きな火傷があった。 薬のおかげでこれでも多少はマシにはなったのかもしれないが、 赤く変色した皮膚は見ていて気持ちの良いものではない。 「うわ…こんななってたんだ…」 ツツジは目を細めて、首の角度を変えて観察した。 そういえば火炙りの時鉄の棒を背負っていたからそれのせいだろうか。 どこもかしこも熱くて覚えてはいないが、原因といえばそれだろう。 「はぁ…しまったなぁ… そりゃこんなの見せられたらキモすぎて引くよね… 失敗して当然じゃん……」 直接肌に触ってもらおー!なんて思った自分が浅はかだった。 ツツジは悲しくなりながら、目の前のガラス扉を開けた。

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