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魔の差す領域 5
扉の向こうは浴室で、綺麗な黄みがかった色の大理石に四方を囲まれている。
中央に真っ白なバスタブがあり、金ピカの猫足に支えられていた。
それを覗いている蛇口もまた金ピカだ。
「わぁ綺麗なお風呂…早く入りたい…」
ツツジは思わずバスタブに駆け寄り、水の張られていない浴槽を撫でた。
しかし、火傷が治ってからと釘を刺されたので今は我慢だ。
とはいえシャワー自体も随分久々なような気がする。
この屋敷に来てからは初である。
壁に埋まったシャワーの下に行き、ちょうど手の高さにある金ピカの蛇口ハンドルを回した。
降ってくる水は最初は少し冷たかったが、だんだんと暖かくなり心地の良い温度になった。
部屋の洗面台で無理矢理洗って以来ギシギシになって跳ね放題だった髪の毛もようやく丁寧に洗えそうだ。
「はぁ…俺風呂好き……」
ツツジは幸せになりながらも呟いた。
とはいえツツジは風呂らしい風呂に入った経験はそんなにはなかった。
大体が井戸から組んだ水で洗ったり、川や池でどうにかやり過ごすことも多かった。
住み込みで働いていた時に短い時間とはいえ入浴の許可をもらえた時や、
身体を売る前に酷すぎるから風呂に入れと言ってもらえた時なんかは飛び上がるほど喜んだものだ。
置いてある石鹸もちゃんと使っていいかとゼアレスに許可を取ったので、心置きなく使うことができる。
「いてて…」
たしかに火傷や傷にお湯や石鹸が染みて痛かったが
身体を清められる喜びに勝るものはない。
ツツジは必要以上に時間をかけて、
間違いなく人生で一番の贅沢なバスタイムを堪能したのだった。
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