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魔の差す領域 8

「ツツジ」 ゼアレスの声に彼は顔をあげ、見上げてくる。 また泣いているのかと思ったが彼は汚れの取れた顔をしていて ますます肌が白く見えた。 ゼアレスは彼の隣に跪いて座った。 「お前がここに来るまでのことはなにもわからない どんな暮らしをしていたのか、どんなことがあってここへ来たのか… お前が言いたくないのなら言う必要はないし、私に知る権利はない。 ただ…」 驚いたように開かれた瞳は、暖炉の炎よりも美しく輝いていた。 目を逸らしたくなるのを堪え、ゼアレスはその瞳に向き合った。 本当にそんな気はなかった。 ”贈り物“に人間を贈ると言われた時もどうせまた刺客だろうと思っていたし、そうでなかったとしても勝手に根をあげて去っていくだろうと。 肩入れなんて、する間すらないだろうと。 だけど。 「…お前がもし、話したいと思うのであれば…そうして欲しいと思っている その、私でよければ…だが」 寧ろ、自分なんかが、という気にすらなる。 彼の事情が”個性持ち“でも、例えそうでなかったとしても そんなに大きな傷を抱えていながら、こちらばかりを気遣って 何度拒絶しようともなぜか諦めない彼を、知りたい、と思ってしまう自分が 浅はかで傲慢にすら、思う。 この美しい男の前では。 「……あー……うん、俺のこと、ね…」 ツツジは困ったように目を逸らしまた暖炉の炎を見つめては、へへ、といつものように笑った。 暖炉の炎はまるで風に煽られたかのように、ゆらゆらと揺れた。 「あんまり、覚えてないや。俺忘れっぽいからさ」 まるで、惑うかのように。 人の身でありながら 人とは違う、領域に立っている。

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