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言えない理由 1
炎も人も、優しくて怖い。
簡単に消えてしまうくせに
消えない傷を残していく。
「おっしゃー!洗うぞー!」
快晴の下、洗濯係をかって出たツツジは
この屋敷の住民に洗う布を出せと半分強盗のような勢いで集めてきた洗濯物と
自分の大切な衣服を平べったい桶の中に突っ込んだ。
屋敷の裏手は庭師が使うらしい道具やらが置かれ、
薪なども積んであり庭よりも閑散としていたが
大きな井戸や物干し竿などもあり、こういった洗濯家事を行うスペースでもあるらしかった。
井戸から水を汲み上げ、桶にひっくり返す。
じゃぶじゃぶと両手で衣服を押し潰して水を浸透させていると、
桶の向こう側に白い足首が見えた。
顔を上げると、蜂蜜が不思議そうな顔でこちらを見ている。
「あ、蜂蜜ちゃん!
蜂蜜ちゃんは洗濯物大丈夫だった?」
ツツジが聞くと蜂蜜は微笑んで頷く。
「そだ!これ見て!仕事のできるお兄さんに貰ったんだー」
ツツジは立ち上がっておニューの衣服を見せびらかした。
最初に試着してから気に入ってきていたシャツとワイドパンツは今は桶の中なので、2着目をおろしたのだ。
モスグリーンのシャツ、ベージュのオーバーオールはストラップを片方外し片肩掛けで着てみた。
黒いスリップオンシューズは履きやすいとはいえ、いまだに包帯付きの足では履くことができず片足だけだが。
「どうどう?ちょっと庭師のお兄さんっぽい?似合う?」
おろしたての服と完璧なコーディネートでツツジは相変わらず上機嫌だ。
蜂蜜はにこにこして拍手してくれた。
それで尚のこと得意げになり、シャツを思いっきり腕まくりして再び洗濯に取り掛かる。
「昨日シャワーも浴びたから前よりはちょっと綺麗になったでしょ」
ツツジは一人で喋りながら手を動かす。
石鹸を泡立て、衣服をこすり洗いし、ある程度洗った衣服は絞って軽く水気を切り
もう一つ用意しておいた桶に移動させる。
「ギッシギシだった髪もちょっとふわふわになったよ」
ちょっとふわふわしすぎて邪魔な気もしたが、火炙りの際焼け焦げて最悪の状態になったことを思えばどうということはない。
あの時はハゲ散らかるんじゃないかと少し心配したが、また綺麗に生えてきてくれたようだ。
自分の服やタオル類、ゼアレスのシャツや庭師の靴下を洗いながら
ツツジはまた一人で勝手に喋っていた。
そもそも独り言の多いツツジであったが
蜂蜜がにこにこして聞いてくれるため、余計にお喋りになってしまう。
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