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言えない理由 4
「パースが君のことを心配していた」
「…え?パース?って誰?」
「……馬。君と一緒に来た」
庭師の言葉にツツジは目を見開いた。
思わず振り返りたかったが、まだ髪を弄られているので我慢した。
「あの子、元気!?」
「ゼアレスが甲斐甲斐しく世話をしているからな」
「そっか…!あの子パースっていうんだ」
時々声を聞いてはいたが、姿は未だに確認できていない。
しかし元気であるならば良いことである。
「君だったらいつでも乗せて連れて帰ってやると言っていた」
「え…」
ツツジは一瞬時が止まるのを感じたが、やがてすぐに苦笑した。
そういえば帰りのことなど考えていなかった。
確かに連絡手段もないし、自分で帰るしかないのだろう。
自分で処刑されに。
馬だって同じだ。
あんなに重い飾りを付けられて窮屈そうだったのに。
ツツジは急に申し訳ないような気持ちになって俯いた。
「…そっか…あんなに怖い思いしたのに…いい子だね」
ここでどんな風に暮らしているのかはまだわからないが、
もしも幸せに暮らしているのだとしたら可哀想かもしれない。
「会いたいのならあそこが馬小屋だ」
庭師は庭の木々の向こう側に立っている小屋を指差した。
「…!うん!後で行ってみる!」
ツツジが頷くと庭師は髪を結び終わったのか立ち上がる。
「髪もありがとう」
彼を見上げてお礼を言うと、庭師は無表情でちらりとこちらを見下ろしたが
何も言わず去っていってしまった。
彼は冷たい目をしているが、気にはかけてくれているようで
ツツジは不思議とくすぐったい気持ちになってしまった。
「えへへ結んでもらっちゃった」
ツツジはまた後ろを向いて見せて蜂蜜に見せびらかした。
蜂蜜はにこにこして頷いてくれた。
ずっとここにいられたらなぁ。
不意に思ってしまった言葉が、酷く恐ろしいことのような気がして
ツツジはすぐに忘れる努力をするのだった。
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