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押せ押せ大作戦 5
ようやく動きが止まった2人は暫くその状態でまたぜえはあと乱れた呼吸を繰り返す。
やがてそろそろとツツジを抱き締めていたゼアレスの手が離れていき
ツツジはようやく顔を上げた。
「…ん、きもちかったぁ……」
ツツジは片手で口元を拭った。
ゼアレスは両手で顔を覆っている。
「おじさん…?大丈夫?」
よく見ると耳まで真っ赤になっている。
「………す、すまない……」
泣いているのか、ぐす、と鼻を啜る音が聞こえて
ツツジは焦って彼の身体に触れ、いろんな角度からどうにか顔を覗き込もうとする。
「え?なんで?ごめんね、痛かった?」
「……おりてくれ」
「あ、うん…」
ツツジは彼の上からそっと降り、思わずベッドの上に正座をしてしまう。
ゼアレスは顔を覆ったままどうやら本当に泣いているらしく
どうして良いか分からず俯いた。
「おじさんごめんね…俺下手だったよね…?
おじさんがこういうの苦手っていってたから、
俺が頑張んなきゃ!って思ったんだけど…
空回っちゃったカナー…」
ツツジは俯いたまま、ため息を溢した。
「……お前なぁ…」
ゼアレスはため息をつきながら、指の隙間からこちらを睨んでくる。
その茶色い瞳と目が合うと怒られているのに、ツツジはつくづく自分は自分のことばかり考えていると呆れてしまうのだけれど。
「……おじさん、ちょっと前から、
俺のこと”ツツジ“ってちゃんと名前で呼んでくれてるよね…」
「は…?」
「今も…呼んでくれた…」
ツツジは膝の上に置いた手を握り締めていたが、どうにもにやけてしまう。
「うれしい……」
本当はずっと気付いていたけど、指摘するともう二度と呼んで貰えないような気がして。
それでもこの満たされたような心地の中でついつい伝えてしまった。
ゼアレスは驚いたような顔でこちらを見ていて、ツツジは眉を下げて微笑んだ。
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