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押せ押せ大作戦 6
もしかしたら今後もあの生き物のことは
何一つ理解できないのかもしれない。
「…しんとうめっきゃく……」
ザァザァと冷たく身体を刺してくる水に打たれながらゼアレスは爆発しそうな頭を冷やしていた。
水は確かに冷たいはずだが感覚がおかしくなっているのか全然頭は冷えない。
それどころか身体の熱もあまりひかないのだ。
とんでもないことが起きてしまった。
一生の不覚である。
抵抗しようと思えばいくらでもできたのに
身体が動かなかった。
いや、動くことを拒否してしまったのかもしれない。
目を奪われる紅潮した顔で、脳を蕩かす甘い声で、
触れたところが熱を持つ柔らかな身体で、
全てが無効化され、今までのことは何もかも通用しないあの存在。
「シニタイ」
思い出してしまいゼアレスはまた顔が熱くなるのを感じ、壁に思い切り頭をぶつけた。
どうしてやったらいいのかもまだ分からないのに。
それ以前に、自分がどうしたいのかすらわからない。
彼を前にすると、なんだか、自分の立場だとか彼の能力だとか
そんなものを全て忘れて自分がただの男になってしまうかのような感覚になってしまって
無性に怒りも湧くのだが、同時に何か胸を締め付けられるようでもあった。
あんなに無防備で、アホで、本当に呆れるほどなのに。
それなのに、今にも消えそうに微笑んで。
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