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炊事場の悪霊 2

「なんだろこれ。ポスト…?」 ツツジが見ていると、 急にそのスライドの戸が物凄い勢いでスライドし戸が開いた。 『こんな時間に、もうお腹がすいたのかしら? 食いしん坊さんね』 セクシーな女性の声が飛び出してきた。 ツツジは驚きながらもおずおずと戸を覗き込んだ。 戸の向こう側はまるで塗り潰されたように真っ黒で何も見えない。 『塩気のあるもの?甘いもの?』 「え…?」 『決まってないの?じゃあおすすめにするわね』 「は、はぁ…」 ツツジが生返事をすると再びピシャリと戸は閉じられた。 あの3人以外にも住民がいたということだろうか。 再び戸が開く。 『ドリンクはどうする?』 「え?えーと…じゃあおすすめで…』 『コーヒーね。ミルクと砂糖は?』 「あ…じゃあお願いします…」 テキパキとした質問に流石のツツジも押され気味だった。 戸は再びピシャリと閉じ、向こう側から食器が擦れる音が響く。 ツツジは苦笑しながら辺りを見回した。 雨がしとしとと降っているだけで誰もいない。 再び戸が開いた。 小窓の前の台にカタ、とトレーが置かれる。 『お待ちどうさま、ちゃあんと味わって食べてネ、 食いしん坊さん』 セクシーな声はそれだけ言い残すとまたピシャリと戸を閉めてしまった。 トレーの上にはドーナツが乗った小皿と湯気が立つ黒い液体が入ったカップが置かれていた。 ミルクと砂糖もついている。 「え…これ貰っていいのかな…」 ツツジはまたしても周りを見渡す。 誰も咎める人はいない。 杖をついたままだとトレーを持てないため、ツツジは杖を壁にかけトレーを持って ガーデンテーブルまでフラフラと歩いて行った。 「これってお菓子…だよね…」 小皿に乗ったリング状の食べ物を前にドキドキしてしまう。 見たことはあったが食べたことは勿論ない。 砂糖を使ったものなんて超超贅沢品なのである。 しかもチョコレートと思しきものまで掛かっているのだ。 ツツジは恐々とドーナツを手に取り、恐る恐る口元へ近付けた。 甘い香りが漂ってきて、それだけで幸せな気持ちになってしまう。 「いただきまーす…」 一口齧り、その素晴らしい味に一瞬世界が煌めいて見えた。 甘くて、幸せなものが口の中いっぱいに広がり ツツジは思わず頬に手を当ててしまう。 「うまぁぁ…!」 感動しながらもまた次の一口を頬張るのであった。

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