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炊事場の悪霊 3
ぺろりと平らげてしまい、ツツジはコーヒーを飲んで落ち着いていた。
雨の音を聞きながら濡れることもなく、
こうして優雅に寛いでいるとまるで自分が貴族にでもなったような気分になる。
ちょっと足を組んでみたりして貴族ごっこをする。
今までの美味しい食事はあのお姉さんが作ってくれていたのだろうか。
たしかに今のドーナツはトぶ程美味しくて、初日に食べた世界一のパンの作り手と同一人物でも何らおかしくはない。
しかしその姿は見てはいけないらしい。
どういう事情があるのかはわからないが、炊事場は開けるな的な事を言われた覚えがある。
それゆえの“KEEP OUT”なのだろう。
「あ、蜂蜜ちゃん!」
庭の奥から現れた花の束を持った蜂蜜に気付きツツジは声をかけた。
この雨の中傘も刺さず薄着だ。
蜂蜜はツツジの元へとてとてとと走ってきて、笑顔を向けた。
「風邪引いちゃわない?大丈夫?」
ツツジが声をかけると、蜂蜜はふるふると首を振って数滴を飛ばした。
彼の手の中には大小様々な色とりどりの花があり、蜂蜜はそれを見せるように持ち上げる。
「わ、綺麗だね」
ツツジが微笑むと蜂蜜はこくこくと頷いた。
透明感のある白い肌の美少年、あるいは美少女の蜂蜜は花がよく似合っている。
「蜂蜜ちゃんは、花の妖精さんみたいだね」
ツツジはそんなことを言いながらテーブルの上に頬杖をついて
その姿を観察した。
今まであまり子どもとは関わりがなかったが、その無邪気な姿やてとてとと駆け回る様子は単純に愛らしいと感じる。
ゆえに彼が愛されるのは当然なのだろうとも。
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