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炊事場の悪霊 7
中央に設置したテーブルで食事をしたかったが、
あまりにも寒すぎたので2人は暖炉の前に座って食事を摂ることにした。
なんだかんだでゼアレスは了承してくれたらしく黙って食事を持ってきてくれたし、ツツジは満足だった。
「ね、あのお姉さんに昼間にお菓子もらっちゃったけど
大丈夫だったかなぁ?」
「お前炊事場に行ったのか?」
「開けてはないよ!小窓のとこに立ったら話しかけてきたから…それで…」
「はぁ…本当にお前は油断も隙もないな」
「でもめちゃくちゃ美味しかったよ!俺お菓子なんて初めて食べた!」
「ヘスティーは腕は良いが、悪霊だからな。
絶対にあの扉には触るんじゃないぞ」
「あくりょう…?」
「あの炊事場に取り憑いている」
「え…?それって、ゆ、幽霊ってこと…?」
「まあそうなるな」
「どういうこと!?幽霊ってご飯作れるんだ!?」
ゼアレスの言葉にツツジは思わず叫んでしまう。
「…彼女は、この屋敷の前の持ち主に“好きなだけ料理を作って良い”と言われここへやってきたが
そいつは少食だったらしく、料理を大量に残されて
挙句に“そんなに作るな”と言われてしまったため契約と違うと激怒して
あの炊事場で自殺して悪霊になった。家主を呪うために」
ゼアレスは顔色ひとつ変えず淡々と説明し
その壮絶な話にツツジは思わず口をぽかんと開けてしまう。
「まあ料理さえ作らせておけば害はない。腕は確かだしな
こちらとしては寧ろ大助かりというか」
ゼアレスはそう言いながら、
その悪霊が作ったらしい夕食を口に運んだ。
「…絶対残さんとこう……」
だいたいまともな食事自体滅多になかったツツジにとって
上等な食事を残すことなんてあり得なかったのだが
より強く決意し、最後の一口を掻き込んだ。
「いやーしかし…幽霊って本当にいるんだね…」
幽霊なんていうものを信じたことはなかったが、昼間に確かに会話をしてしまったし
ゼアレスが冗談を言うとは思えない。
「…私もここへ来て初めて会った。
この山はそういう、人ならざる者達にとっては過ごしやすいのだろう」
ツツジはカザリがこの山はパワースポットだと言っていたことをなんとなく思い出した。
「おじさんは…ここに来る前にはどこにいたの?」
「……。」
ゼアレスは目を細める。
言いたくないのだろう、とツツジは瞬時に察してしまって気まずさを感じ俯いた。
自分は言っていないのに相手に聞くなんて失礼だったかもしれない。
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