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炊事場の悪霊 9
まただ。
ツツジは直感していたが、すぐに誤魔化すように顔を上げて苦笑した。
「…それはそうと、ずっと気になってたんだが、
お前のそれはなんだ…?」
ゼアレスは自分の頭のこめかみ辺りを指し聞いてくる。
ツツジは、忘れていた髪に挿した花の存在を思い出しそれに触れた。
「え…ああ、これ蜂蜜ちゃんにもらったんだ…
変だよね……こんなの……」
こんな綺麗な花も、本当は自分には相応しくない。
ツツジは花を自分の髪から抜き取り、苦笑した。
呼吸が浅くなっていく感覚を感じながら、
どうにか“これ”を抑える方法を探していた。
身体の奥底が震える。
暗くて、熱くて、冷たくて。
視界が暗くなって、また世界が暗転する。
彼を傷付けたくなんかないのに
殺したくなんか、ないのに。
なんで。
なんで、
なんでなんでなんで、
なんで
わかってくれないの?
なんで、
助けて
「変ではない」
目を閉じてしまいそうな寸前で、
ゼアレスの手がそっとこちらに伸びて来た。
ぎこちなく、花を奪い
そしてそっと髪に彼の指先が触れた。
「お前によく似合う」
真っ黒な視界の中、ゼアレスの優しい声が響いた。
低くて、安心できて、ずっと聴いていたいような声。
もっと触ってほしい
もっと近くに来てほしい
もっともっと、
もっと、あなたのそばにいられたなら。
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