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向き合うべきこと 3
“ちゃんと向き合って”
あの声が果たしてなんだったのかはわからない。
ツツジの口が動いているようには見えなかった。
しかし、どこか胸を締め付けられるようなそんな声をしていた。
結局、胸にしがみついたまま眠ってしまったツツジを彼の部屋のベッドに横たえながら
その寝顔を見下ろし色々と考えてしまう。
ここ最近、ずっと彼を泣かせてしまっているような気がする。
彼の頬を撫で、その長い睫毛に触れた。
知りたくないのに思い知らされて、
知りたいのに突き放される。
本当に煩わしい存在だ。
「…お前とどう向き合えばいい…?」
ゼアレスは思わず苦笑した。
こんなことは傲慢だ。
人間の汚い感情なのかもしれない。
彼の全てを暴こうとする欲望に、その肌に触れようとする浅ましさに
そんなものから遠ざかるためにここにいるというのに。
人間が嫌いで、醜さを見ていられなかったはずなのに。
今の自分はもしかすると、その醜くて嫌いな人間そのものなのかもしれなかった。
それでもゼアレスは、小さな寝息を立てるその存在を
愛おしいと思わないわけにはいかなかった。
赤い髪を撫で、恐る恐るその髪に口付けた。
人ならざる力には抗えない。
ただの人の身である自分はどうしてやればいいのかもわからない。
それでも彼のその純粋な心を救うためであるのならば
例え呪われようとも知ったことではない。
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