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向き合うべきこと 4

ザァザァと雨の音が遠く響いていた。 大きくて暖かい何かに包まれて、 ツツジは自分の心が絆されていく感覚に浸った。 顔をあげると、ゼアレスがいた。 優しく強いその眼差しに、自分が写っているのがただただ嬉しくて。 心がどういうものなのかはわからない。 だけど、この人のことが好きだ、と ただそれだけが、溢れていた。 浸っている自分の背後に ヒヤリと冷たい空気を纏った気配を感じ、固まった。 その何か、はツツジの背中に触れ 身体を抱きしめるように彼から引き剥がす。 急に空気が冷たく凍り付いたように、嫌な風が流れ始める。 真っ赤に染まった手がツツジの身体を撫で、耳元で囁く。 「散々人を殺しておきながら自分は助かりたい、か」 俯くツツジの顎を掴み、赤い手は無理矢理顔を上げさせてくる。 視線の先には今まで散々見てきては忘れようとしていた光景が広がっていた。 「本当はわかっているくせに」 四散した肉体、頭部だけが転がりこちらを睨む瞳、 踏み潰されたように原型をとどめていない肉塊、 真っ赤な真っ赤な赤い血溜まり。 風に乗って吐き気を催す香りが運ばれてくる。 ツツジは目を逸らしたくなったが無理矢理顔を向けさせられる強い力には抗えなかった。 「見ろあの屍の山を。お前が築いたものだ。 彼が見たらなんて言うだろうな? お前がこんなにも残酷な男だと知ったら 死を求められている殺人鬼だと知ったら もう抱きしめてはくれないだろうな」 耳元で面白そうに笑う声が聞こえる。 「やめてくれ…」 ツツジは掻き消えそうな声を絞り出した。 背後の存在はクスクスと笑う。 「やめてくれ?本当に身勝手な奴だなぁお前は。 自分だけいつもこんなに白くて綺麗な手をして、 清廉潔白だとでも言いたいのか? だから誰かを愛する資格があるとでも?」 赤い手に両手を掴まれる。

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