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向き合うべきこと 5

血に濡れた指に、指を絡められ 自分の手が汚れていくのが見えた。 「よく考えてみろよ…お前にできることはなんだ? 可愛らしく抱かれることか?バカを言え なんでお前がここに送られて来たのか、よく考えろよ」 耳のすぐ近くで囁かれ、ツツジは身体を震わせていた。 「お前は人を傷付けることしかできないんだよ…」 赤い手はやがて顔に触れ、頬に爪を立ててくる。 「なあ、ここは寒くて冷たい。 ここに入った人間はみんな死んでいく。 別に殺したくなくても彼をここに招き入れれば、どうせ死ぬぞ? その時ですらお前はまた見ないフリをするのか? それとも、ようやく”役割だから“”任務だから“と開き直るか?」 赤い手は視界を塞ぐようにツツジの顔を撫で回して、 耳元で、はは、と笑った。 その悲しい声に、胸が内側から掻き毟られるようだった。 「……なあ、俺はお前が憎い… お前のことを一番殺したいくらいだなぁ… お前だってそうなんだろ?」 あんなに強く縛っていたその背後の存在の力が、急にフッと抜けて ツツジは急に赤い血溜まりの空間に突き放された。 「俺を見てくれよ……」 消えそうな声、ザァザァと雨の音が聞こえる。 遠くにゼアレスの背中が見えた。 去っていく後ろ姿に思わず追いかけたくなった。 このまま赤い血溜まりを踏み越えて、彼のもとへ走っていきたいと。 「……おじさん」 大声で叫びたかった。 振り返って欲しかった。 どんどん背中は小さくなっていく。 背後から泣いているような声が聞こえた。 ツツジは足元を見下ろす。 知っている光景、何度も見てきた。 赤い血溜まり。 ずっと逃げてきた。ずっとずっと。 人を殺したいと思ったことはない、 こんなのは認められない、 ”俺の声じゃない“ だけど。

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