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向き合うべきこと 6

向き合う、ちゃんと、 ツツジは歯を食いしばり、後ろを振り返った。 赤い髪、白い肌、たくさんの返り血を浴び 膝を抱え小さく縮こまるその姿に ツツジはフラフラと歩み寄って、崩れるようにその存在の前に膝をついた。 「行けよ、あの男のところに」 「………行かない」 「無理をしなくていい。繰り返せ、得意だろ 汚いものから目を逸らし、都合の良いところだけ寄せ集めて そうやって、人間みたいなフリして、ずっと逃げ回ってろよ…!」 その存在は顔をあげることなく叫んだ。 ツツジはその赤い髪を、血で汚れた両手で抱きしめた。 「…俺は、ゼアレスが好き 本当に、本当に、ずっとそばに居られるなら、そうしたいよ でもこれは、きっと無理だ…思っちゃいけない わかってるよ…わかってる…」 腕の中の存在は震えていた。 小さくて、今にも消えそうに弱々しくて 冷たくて、重くて、吐き気を催すほどの血の匂いをさせていて。 それでも、この存在を抱きしめられるのは自分だけだと痛いほどわかるから。 「俺は本当は、あの人を殺すためにここに来た… そうだね、…俺を使う理由なんてそんなことくらいしかない… わかってるよ、よく、…でも俺は、ゼアレスを殺せない… 俺はあの人を守りたい、何に代えてもね。」 あの人は強くて優しい。 確かにちょっと顔は怖いし、身体も大きくて近寄り難いのかもしれないけど。 真面目で、純粋で、真っ直ぐで。 彼のことを思うと胸が熱くなる。何もしてないのに泣いてしまいそうなほどに。 腕の中の存在は恐る恐る顔を上げた。 涙で濡れたその赤い瞳に、ツツジは微笑んでそっとその頬を両手で包んだ。 「あの人は、俺と違って、この世界に必要な人だ。 強くて優しくて、ね、君も知ってるでしょう?」 冷たい頬。血の通っていない人形みたいだった。 それでもその存在は透明の涙を留めどなく溢れさせていて 赤い血と分離して、流れていく。 「俺はここにいるよ。 あの人を守れるのなら、例え地獄に落ちたって構わない」 頬に流れる涙を拭い、優しく撫でるようにその肌を滑らせ、 細い首に両手を降ろした。 その存在は静かに目を閉じる。

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