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わがまま。 1
人が過ちを繰り返す間、
人になれない者は過ちを殺していく。
夜中の大雨が嘘のように翌日の朝は太陽が強く輝いていた。
まるで汚れが洗い流されてしまったかのような澄み渡る青空、
心地の良い風と澄んだ空気に思いっきり伸びをする。
ゼアレスは自分の部屋の窓から美しい山や庭師がよく管理している庭を観察した。
小鳥達が楽しそうに歌い、庭の木々に集まっている。
先日カザリから貰った植木鉢を前に、芝生の上に寝そべっている蜂蜜の姿も見えた。
パタパタと足が動いていてご機嫌な様子が伝わってくる。
ただの人間の身であるゼアレスには何と無くしかわからないが、この山の神聖な空気は
神に近い存在達や人ならざる者にとってはとても過ごしやすい場所らしい。
人が皆愚かとは思わないが、自分もわからない立場であるからこそ
ついこの営みを忘れてしまう事は理解できた。
無関心になりやがて利益ばかりを考え、誰かを傷付けても知らぬ存ぜぬ
或いは傷付けていることにさえ気付いていない事もあるだろう。
だからこそ自分はあくまで人の立場であり続けねばならないのだろうとも思う。
数匹の鳥達がこちらへ飛んで来て、美しい声で歌っている。
やがて窓枠についていたゼアレスの手に近寄ってきて、着地した。
小さな嘴で指先を突くようにされ、そのくすぐったさに目を細めながらもじっとしていた。
分からなくても感じられなくても、その存在達の営みを敬い、守り
時には守られていることに感謝をする。
性質は違えど、力の差はあれど、人であろうとなかろうと、
本来は平等に、同じこの世界の住民であるのだろうから。
それぞれの役割を、それぞれの使命を、それぞれが果たしていく。
ゼアレスは小さな足の乗った手をそっと持ち上げて、
掌の上に移動したその小さな存在に顔を寄せた。
一羽の小鳥はぴとりとゼアレスの頬に寄り添って、やがて窓の外へと腕を伸ばすと仲間達と共に飛び立って行った。
その姿を見送っていると、こんこんとノックの音が転がり込む。
「おじさーんごはん一緒にたーべよー」
ツツジの声が聞こえてゼアレスは思わずため息を零す。
その間延びした喋り方に、ヘラヘラした笑顔まで想像できる。
それを前に、心が掻き乱される自分の姿も。
それでももう前のような嫌な気持ちには不思議とならないのだ。
「なんだ、起きてんじゃん?無視するなんてひどーい」
勝手に部屋に入ってくる赤い髪の男は口を尖らせて文句を言ってくる。
その瞳の輝きにゼアレスは心が熱くなるのを感じながら、そちらへと歩いていった。
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