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わがまま。 3

朝食を終えるとツツジは大広間の大きな窓の前で外を眺めていた。 相変わらず片足は包帯が巻かれ、二本の杖で身体を支えている様は痛々しかったが 口を閉じ遠くを見つめている彼の姿は、長い睫毛と白い肌も相まってまるで精巧な人形のようだった。 自分が特にそう感じるだけかもしれないが、 その横顔には彼の異様な美しさをまざまざと思い知らされる。 それと同時にどこか寂しそうな、悲しそうな、その赤い瞳に 胸が締め付けられるような苦しさが迫り上がってくる。 昨日の一件も気になるし、もしかするとこの山の影響でカザリが言っていたような、彼が”力と向き合う”ということが起きているのかもしれない。 例えそうでなかったとしても 今のゼアレスには、そんな彼を素通りすることができず隣に立ってその顔を覗き込んだ。 「ツツジ…」 声をかけると、ツツジはゆっくりとこちらを見上げ微笑みを浮かべた。 「ん?」 その顔に幾らか安心してしまう自分の弱さに呆れながら ゼアレスは彼を見下ろした。 「その…、なんというか…今まであまりお前に構ってこなかったからな… 何かしたい事があれば言って欲しい」 怪我をしているとはいえこの屋敷は退屈かもしれない。 知らない所で案外満喫して過ごしているような気もしないではなかったが 何か自分にできることがあればしてやりたかった。 「俺のしたいこと?なんでもいいの?」 「まあ、怪我に障りがない範囲で、な」 ゼアレスが頷くとツツジはじっとこちらを見上げてくる。 どうやら何か考えているようだ。 「…んーとね、…じゃあ俺おじさんとデートしたい」 「で……」 予想外の答えにゼアレスは思わず蹌踉そうになり、窓に片手をついた。 しかしツツジはぐいぐいとこちらに顔を寄せてくる。 「だってしたことないし! 死ぬ前に一回くらいはやってみたいじゃん」 「しかしだな…」 「なんでもいいんでしょ?なんでもいいって言ったよね?」 「わかったわかった…!」 毎度お馴染みの圧の強さで来られ、ゼアレスは自分が提案した手前断るわけにもいかず 仕方なく了承せざるを得なかった。 「言っておくが私もしたことないからな…! うまくできるか知らんぞ」 咳払いをしながらそう答えるとツツジは嬉しそうにしている。 全く本当に理解不能である。

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