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わがまま。 5

同じ屋根の下にいながら待ち合わせも何もないと思うのだが おしゃれしてきて!と言われてしまいゼアレスは少ないワードローブを前に相当頭を悩ませて 着用回数が少ないため比較的綺麗めな状態だったというだけの理由の黒いシャツと同じ理由の黒いスラックスという 全身黒づくめコーデが完成した。 一応仕事をするには些か洒落ているような気がして 全く履いていない少しヒールのある革のロングブーツも履いておく。 おしゃれがなんなのかも全く分からないゆえ、 これでいいのかどうかさえ分からない。 待ち合わせ場所である炊事場前のテラスへ行くと 先に来ていたツツジが、炊事場横の受け取り口の前で手を振ってくる。 衣服を貰ってすぐの時に着ていた黒いワイドパンツに、襟のない白いシャツ、 焦茶色のカーディガンを羽織っていて相変わらず靴は片方だけだ。 髪の毛も軽く後ろで縛っていたが長さがバラバラなのか結局横からぴょこぴょこと跳ねている。 「へへ、どう?どう?可愛い? ゆるカジおしゃれ男子って感じにしてみたんだけど」 おしゃれに疎すぎるゆえに テーマもよく分からず、全体的にゆったりとした着こなしは少々サイズが大きいのではと心配になるゼアレスであった。 「まあ…可愛いんじゃないか?」 とりあえず褒めておくとツツジは、可愛い!?、と嬉しそうにしているのでよしとしよう。 「おじさんもバッチリかっこいいね!足長え〜」 服とは関係ないところを褒められて、おしゃれとはと思うゼアレスであった。 喋っていると炊事場横の小窓の戸が勢いよく開き、 台の上に布で包まれた四角い箱が置かれた。 図鑑か辞書を3つか4つ重ねたような分厚さだった。 『お待たせ〜お弁当なんて久々だから張り切っちゃったわ』 炊事場の悪霊が心底楽しそうな声を出している。 「なんだこれは」 「お弁当頼んだんだー」 『お茶も用意しなきゃだわね、うふふふ』 悪霊は楽しそうに笑いながらピシャリとまた戸を閉める。 ヘスティーのあんなに楽しそうな声は初めてだった。 「本当は自分で作った方がいいのかもだけど、俺料理わかんないしさ」 ツツジは肩を竦めてどこか申し訳なさそうに笑った。 再び戸が開き、細長い鉄の筒が飛び出した大きなカゴが置かれる。 『食器は2つずつでよかったかしら?』 「うん!俺たちこれからデートなんだ」 「いちいち言わんでいい」 『あら。羨ましいわねえ、楽しんできてちょうだい ただし夕食には遅れないでよ?』 ヘスティーは上機嫌に言うとまたピシャリと戸を閉めてしまった。 「嬉しそうだったな…」 あんなに喋る彼女は珍しい。よほど弁当の注文が嬉しかったのだろう。 ゼアレスは苦笑しながらもずっしりと重い包みをカゴの中に突っ込んだ。

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